第53話

「あんた、最近の知り合いよね?」    「あぁ、お前にまだ話して無かったな。あいつとは、俺が東京に用事があって、小杉と 行った時にな、腹が減ったんで帰りに近くにあった居酒屋に入ったんだ。その時、偶然あいつが近くに座っててな。一人で飲んでたんだよ。それで、最初は別に気にも留め無かったんだが、何かやたらと廻りの女を気にして見てるんだよ。廻りの、何人かで飲んでる若い女達を。何やってるんだ、こんな所で、と思ってな。しかもその目付きが凄くきついしな。一体何なんだ、こいつって。それで興味持って、一寸話しかけてみたんだ。」   「ふーん。」              「そうしたらとても感じ良いしな。それで 名刺を出したら、向こうも出した。それで、警察の人間だろ。あぁ、だからあんな目付きをしてたんだなって。だから、きっとあの時も女を物色してたんだろうな。丁度良さそうな女はいないかって。」         「そんな所でね~。」          「普通なら、もし親しい人間がいればそいつ等と飲みに行ってそこで探すとか、そんな話を相談すりゃあ協力してくれて、そんな事をしそうな女を探してその店に連れてってくれるだとかしそうなもんだけどな。仲良い部下だとかが。自分だって恩を売っておきゃ良い思いができるとか思ってよ。だけどあんな性格だから、そんな事を相談する相手もいなきゃ、したとしても誰も協力なんてしないんだよ。もし駄目になりゃ、どんなに恨まれるか分からないからな!それで何をされるか分からないからな。」            「だから自分で探してたって訳…。」   「それで、凄く気さくで感じ良いし、話も 面白いしな。だから俺達が出る時に、これから横浜に戻るんですけどそしたら飲みに行くんで、良かったら一緒にどうですかって聞いてみたんだ。別にそんな本気じゃ無いけど、何となくな。そしたら、はい行きますって言うんで、こっちも驚いてな。わざわざ横浜まで来るって言うんで。」         「それがあの時だったのね?」      「あぁ。それであの時あの女に会って、さぞや嬉しかったんじゃないのか?何しろ、自分にとっちゃ、ピッタリだからな。」    「だけどそれが駄目になっちゃって、あんな風になっちゃったのね。何だか可哀想って 言えば可哀想ね。」           「ああ言う男だから、子供なんてできなきゃ諦めるってのが、できないんだろうな。」 「そんな、子供なんてねー。」        「ああやって地位や金があっても、自由に ならないものもあるんだな。」      「そうね〜。」               二人はそこで黙った。リナは丁度良いと思って出て行った。そして、待機する場所に座った。

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