第54話

その日はいっもと同じ様に終わった。千帆は来なかった。次に来たのがその一日か二日後。千帆はその間に、吉永と外で会っていた様だ。小声で仲間の二人に話しているのが聞こえた。                「もう、すっごく優しいの〜!」     そして次に来た時には首に高そうなダイアモンドとサファイアを散りばめたネックレスをしていた。仲間二人が驚いて絶賛した。吉永に貰ったと、非常に嬉しそうだ。小声で、 こちらを意識しながら話しているが、聞かれたら困るのか、だが聞かしたいのか?   リナはチラッとネックレスを見たが、直ぐに目を離した。高いだろうな、だけどあれは私が好きな石じゃない?          横浜公園で、帰りに色々と話した時に、自分が好きな物を聞かれたりして話した…。確かあの時に青い色が好きだと言って、指にはめた小さなサファイアの指輪を見せた。そして、だからサファイアが好きだと。    それは、もっと若い時に祖母に買って貰った物だ。祖母は毒祖母だが、物はたまに買ってくれた。だから昔、アメリカに留学する時に買ってくれたその指輪を見せて説明した。 それを嵌めてからは、殆ど外したことが無いと。                  その時吉永に、他にはどんな石が好きかと聞かれ、石の中で一番硬いと言うダイアモンドが好きだと答えた。そしてこの二つが絡み合った指輪やネックレスは凄く綺麗だろう、いつかそんな物を身に着けられたら嬉しい、と話した。               千帆自身も、自分がそんな物を貰って驚いている様だ。何故そんな物を、しかもそんな直ぐに貰えたのかと。           まだ関係はないのかな、それともあったから焦って買ったのかな。自分がした様に、断らない様にと?              それからは来る度に、小声で吉永の話を他の二人に、待機中にコソコソとする。ある時はこう言っていた。           「で、吉永さんがね、あの子は世間知らずでもなんでもないよって。だから気を付けた方が良いって。ママも大沼さんの事も。あの子の味方だからって。だって、底辺の人間は 同じ底辺の人間の味方をするからって!  それで、あの子は世間知らずなんかじゃないし、結構遊び慣れしているって。お酒も凄く強いし詳しいし、ビリヤードなんかもできるしって。」               「そうなの?!」            「うん。ディスコに行った時も、みんな従業員が知ってたりとか、みんな色んな客が沢山話しかけてきたりチヤホヤしたりして、凄かったんだって。」            「なんかそれ、あの時言ってたよね?」  「それ、一体何処のディスコなの?」   「サーカス。」             「エーッ、何なの、不良?!」      「エッ? サーカスって、あの?!」   「うん、そう。だから気を付けろって。  ヤクザなんかも恐がらなくて平気だって。 友達の富貴恵ちゃんって子も、凄く太ってるんだけど、結構頭が良くてクセ者だって言ってた。もう一人仲がいい子もいて、それは ホスト好きなんだって!」        「エーッ、ディスコに、今度はホスト?!」「だからうんと気を付けろって、私がまだいる間はって。誰を知ってるか分からないからって。そんなのが友達だから、ホストだとかヤクザだとか、そんなのに何か頼んでさせるかもしれないからって。」        「うわ〜、恐い。」           「千帆ちゃん、気を付けて!」      リナは何を勝手な事を言ってるんだと思って声をかけてやった。           「ねー、聞こえてるよ。」         三人がドキッとして自分を見た。     「千帆ちゃん、私もう吉永さんとは関係ないから。だから心配しなくても、平気だから。それよりももっと自信持たないと、それこそ嫌われちゃうよ!」           そう言うと、千帆は嫌そうな困った様な顔をしながら自分を見ている。無言だ。    「じゃ、トイレ行って来ようっと!」   席を立つ。トイレへと歩いて行くと、やっと立ち直ってこっちを見て悪口を言って笑っている。                 その様子が聞こえる。何だよ、目の前じゃ 何もハッキリと言えないクセに。あれじゃ、負け犬の遠吠え!ああやって、馬鹿にして笑って悪口を言うしか能がない…。相手の事を、あんな風に意識しまくってるクセに。 それに、吉永は何でいちいち余計な事をああして教えるんだろう…。

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