第52話

「あいつが母親の事を、米軍の中で事務をしてるって言ってただろう?」       「言ってたわね。」           「だから分かったんだよ。分からない筈がないだろ、毎日そう言う所に働いていて、ああした男を毎日見てるんだから。だから、ああした男が、普段はなんでもなきゃ普通だし 優しくても、何かありゃあんな風になるってのが。何かありゃ、ああして徹底的にやるんだよ。そしてそんな事、何とも思わない。 それが仕事だからな、軍も警察も。それで、絶対に許さない。普通の男なら幾ら揉めたってあそこまで女にしない。ましてや自分が 気に入ったとか抱いた女にな。だけどあいつはやっただろ?しかもあの女が言ったら、 自分も平気で言っただろ?布団の中での事をああだこうだと。あんな事、幾ら女が言っても、普通の男は言わないよ。自分が言われてもな。言っちゃいけないんだ、幾ら何でもそんな事までな。だから、母親は分かってたんだよ。もし何かあれば、どんなに普段は良くても必ずああした事になると。ああ言う事を娘がされるってな。だから嫌がったんだ。」「あぁ、だからなのねー。」       「そうだよ。大体、自分だってそういう男と付き合って、子供まで産んでるんだからな。一番、分かってるだろう。」        リナはしっかりと聞いていた。だが、もう そろそろ出ていこうかな、と思った。だが 又会話が続いたので、そのまま聞き入った。                 「昨日もあの後、出てから千帆ちゃんと  小さな声で何かゴチョゴチョ話してたよ。 あいつはまだ子供の事が諦められないんだ。マリンが仕方無くて駄目なら、他の女でも良いから産ませたいんだ。」        「エーッ、まだやる気なの?」      「だから、今度は千帆に産ませる気だな。」                「だけど昨日あんな事があったじゃな い?!」                「うん、普通ならあんなのを見れば恐くて あんな男、相手にしないよ。だけど、あれはマリンを嫌ってるからな。今までは此処  じゃ自分が一番だと思って喜んでいたんだけど、あんなのが来てな。自分よりももっと 見栄えの良いのが来て、もう一番では無く なった。それが凄く頭に来てるから、その 女がああして徹底的に目の前で攻撃されて、やられてりゃあ、嬉しくって仕方ない!  だからそれをした男が、今度は自分に興味を持った。ならそんな男を自分に夢中にさせたいって、そう思うんだな。そして、自分ならあんなヘマはしない、上手くできるって思うんだよ。」               「まぁ、あの子なら上手くやるかもしれないわね。」                「所が、あれだって何かありゃ同じなんだけどな。」                「でもあの子ならあそこまで言われないん じゃない?普通の日本人だし。だって、凄かったじゃない?!アメリカ兵の子供だとか クズだとか…。」            「いや、同じだよ。ああ言う男はな、何か あれば又違う事を考え出して言うんだ。それで、又あんな風に色々と言ってくるんだ。 だが、それを分かってないんだな。」   「そう…。困っちゃうわね。又変な風に  ならなきゃいいけど。」         「俺も昨日あんな事を見る前は、まさか  あいつがあんな男だなんて知らなかったよ。だから、驚いたよ!小杉だってもう絶対に 一緒に飲みたくないって言ってたからな。 マリンちゃんが凄く可哀想だって言って  たし。」                「あれじゃあねー!」          「あいつはおそらく、友達なんていないな。いてもおそらく、学生時代の友達位で、年に何回会うか会わないか位の、その程度だろうな。だから、飲みに行く相手だっていないよ。幾らどんなに仕事では威張っていても、それが終われば誰も相手にしない。部下だって、何だかんだ理由をつけて断って逃げる。おそらくあんな事は昨日だけじゃない筈だからな。女にもやる位だから、必ず誰か他にもやられてる筈だ。だから、誰もあんな事を自分もされたくないから、恐いからな。」

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