第24話

リナも相手の三人の方を見た。吉永の真似をしながら睨み付ける。睨みながらチラチラと吉永の方を見る。            「ねー、奥にヤクザが何人かいたの。あの ヤクザ達に助けてもらおうよ。」      吉永が一瞬、驚いた表情をした。だが黙っている。相変わらず相手を睨み付けている。「ねー、私行ってこようか。多分助けてくれるんじゃあ。」              又言ってみた。             「ねー、吉永さん。そうしようよ?」   吉永の方をチラチラと見て話す。そして又 必死で一人の黒人の顔を睨む。相手も自分をジッと見ている。            と、いきなりその相手が驚いた様にゲラゲラと笑い出した。な、何?リナは驚いた。吉永はそのままだ。するとその笑い出した相手が、リナを誘った男に何かを言っている。 もう一人も聞いている。もう全員が睨んでいない。吉永はそのままだ。        すると、その笑いだした相手がいきなり日本語でリナに話しかけた。リナは驚いた。  「ねー、その人、本当に知り合いなんだね?」                 「うん、そうだよ。」          「いやさ、コイツが君の事を、変な男に捕まってるなんて言って心配してるからさ。見に来たんだよ。もしそうなら大変だからね。」「エーッ?!」             「だって、確かに言われりゃ、何かそんな 感じだし。」               リナは呆れ返った。だが確かに自分と吉永とでは、余り普通のカップルに見えないかもしれない。ましてやこんな所では余計に。  大体、背広姿の中年の男なんて殆どいない。ゼロに近い。だからそんな風に思われたのかも…。                 吉永も今はもう三人を睨み付けてはいない。だが、何か不服そうな、信じないという様な様子で、苦々しく聞いている。結局、この 話しかけてきた黒人は、自分も日本人との ハーフで名前はボブだと言うと、他の二人を連れて奥へと消えた。          「なぁんだ。良かった!とんだ勘違いだよね。」                  リナはすっかり安心すると、小皿の中の小さく切ってあるそのポテトサラダのサンドイッチを口に入れて、又音楽を聞きながら身体を揺すった。だが吉永は安心していなかった。「もう出ようか。」           「エーッ、もう出るの?!」       「うん。」               「だって、まだ来てそんなに経つてないよ。」                「でも、出よう?」           「分かった、吉永さんがそう言うなら。」  二人はロッカーの所へ行き、吉永が鍵を入れた。リナが自分の荷物を出す。そして、取りあえず手の甲にスタンプを押してもらい、 吉永にも押してもらう様に言った。    「これで、又入りたったら戻って来れるから。」                 「うん。」                だが吉永はもうそんな気は無かった。リナも見てなんとなく分かる。さっきの事だ。もしかして、戻れば又さっきの連中が何か言ってくると思っているのだろう。そんな事を考えたら、急に少し恐くなった。思わず身体を前のめりにしてから、ハーっと息を吐き出した。                  「あぁ、だけどさっきはびっくりしたよね?」                 リナはそう何度も言った。吉永はその様子を見ている。               「だけど、私ここは何度も来てるけど、あんな事普通無いよ!あんな事初めてだよ!」「そう?」               「そうだよ!本当にびっくりだよ。だから 吉永さんも余り変に思わないでね。」    何故かそう弁解した。          「じゃあ、他へ行こうよ、吉永さん。もっと落ち着いた所が直ぐそこにあるから。」   リナ達はサーカスを出て、本の数メートル 山下公園の方へ歩いた所に立っていた。

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