第23話

黒人の青年は又しつこく踊ろうと誘ったが、リナはきっぱりと断った。青年は仕方なく 去った。リナはそのまま又曲に聞き入り、 身体を揺すっていた。          そして何気なく上を向くと、慌てて目を反らした。そして、吉永の腕を揺さぶった。吉永がリナを見る。リナの顔は恐怖で一杯だ。 何だ、どうした?吉永は不思議そうな顔をしたが、リナが直さまこう言った。     「吉永さん、あれ見て!」        吉永は、リナがそう言いながら顎を斜め上に向けたので自分もその方向を見た。そして、驚いた。さっきリナにしつこく踊ろうと誘っていた黒人が、他に二人違う黒人青年を引き連れて、リナを上から見下ろしていた。仲間の二人もそうだ。そして、リナを見ながら吉永の事も見ている。見ているというよりも、睨んでいる様だ。            吉永が凄い形相になった。三人を、又は自分を特に睨み付けている一人を睨み返した。互いに睨み合っている。リナは恐くなった。ど、どうしよう?!誰か呼んで来なくちゃ。石野君、近くにいないの?他のボーイはどこ?フロントの方へ行けば誰かいる、進藤さんを呼んて来ようか?!         アッ、そういやさっき入って来た時に気付いたけど、もっと奥の方にヤクザが三人位いたな。あのヤクザ達の所に行って、事情を説明したら来て助けてくれないかな?!    吉永と三人の黒人達とが互いに凄い形相で 睨み合っているのに、周りに座っている一部の連中も気付き始めた。何か心配と興味とでこちらを見ている。           それでリナは急いで目の前に座っている  女の子に頼んだ。さっきからずっと気だる そうにタバコを剃っている二人組の女の子達の一人だ。               「ねー、誰か呼んて来てくれる?!」   そう頼んだ。その子は困った様に知らんぷりしている。又言った。今度は両方を、交互に見ながら頼んだ。もう片方も同じ反応だ。 その横の日本人同士のカップルも、恐そうに見ているだけ。リナは廻りを見回して何度か同じ事を繰り返したが、この状態に気付いている連中は誰一人、何もせず、する気も無い様だ。関わりたくないし関わるのは恐い、と言った感じだ。後の連中は自分達の世界に入り込んでいて我感せず、見てもいない。又は気付いてもいない。そして自分を知っている、声をかけてきた連中も今、廻りに誰もいない様だ。               あぁ、もういい!自分が誰かを呼んで来よう。                 「私、誰か呼んで来る!」        リナは吉永に向かってそう叫ぶと腰をサッと浮かした。               「待て!」               吉永がリナの腕をギュッと引っ張ったので リナは椅子に座り込んだ。吉永は腕をしっかりと抑えながら、まだ相手を睨み返している。                  「じゃあ、どうするの?!」       吉永は返事をしない。

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