第22話

「そうだ、何か飲もうよ!吉永さん、何が良い?」                 「あっ、何でも良いよ。」        「そう?じゃ、私が好きな物でいいね?!」中は物凄く混んでいる。凄い熱気だ。大声でないと聞こえない。           「じゃ、私一寸貰ってくるね!そうそ、飲み放題だからね、心配しないで。チケット買えば幾らでも飲めるから!」        何か嬉しくなってきた。急いでカウンターの所に行き、他の皆と同じ様に列に並ぶ。自分の番が来ると欲しい物を大声で言い、作ってもらう。同じ物を二つ、こぼさない様に吉永の所に持って行く。           「ハイ、吉永さん。」           吉永が受け取り、一口飲む。       「これ、何?」            「ロングアイランドアイスティー。強いから気を付けてね!」            「うん。」               「どう、美味しい?」          「うん。」               「そう?良かった。少しクセがあるけど、でもこれならちゃんとに酔えるよ。」     吉永がリナを見る。           「ねー、リナちゃん。一寸トイレに行っても良いかな?」              「トイレ?うん、いいよ。あそこだから。」リナがトイレの方を指した。       「じゃ、一寸待ってて。」         吉永は自分のドリンクをリナへ渡すとトイレヘ行った。リナはドリンクを飲みながら吉永を待った。 中々戻って来ない。一体どうしたんだろう。何かあったのかな?段々と心配になって来た。いくら何でも遅すぎるんじゃあ。一寸行って覗いてみようかな〜。だけど男便所だし…。誰かに頼んでみようか?だけどそんな事したら、変に思われるだろうし。誰か知ってる男の子、いないかな?誰かボーイの子、近くにいない?だけど、まさか倒れてるなんて事無いだろうし…。一体何やってるんだ?さっきから他の男達が何人か入って行ってるけど、皆直に出て来てるのに。何で吉永さんだけ、こんなに遅いの?リナはイライラしながら待った。そして待つ事三十分、吉永がやっと出てきた。もう中は凄い人。余りの人の多さに自分の事が分からないらしい。キョロキョロしながら探している。近くへ来た。                「アッ、いた!」            自分を見ると嬉しそうな声を出した。リナはもう頭に来ていた。           「ねー、何かあったの?!」       「ううん、別に。」           「じゃ、何でこんなに遅いの?何かあったのかと思って、心配したんだよ。誰かに見に 行ってもらおうかと思った位!」     「ごめん、ごめん。混んでいたから。」 「ふ〜ん、そう?」           そんな風には見えなかったけど。確かにニ、三人は入って行ったり出たりしてたけど。 混んでるって感じでもなかったなぁ。                  「アッ?!」              もしかしたら、小さな方じゃなかった?だからあんなに時間がかかったのかな?急にそう思い、まじまじと吉永の顔を見た。だけどそんな事、聞けない。           「もういいよ〜!ハイ、これ!」     リナは吉永のグラスを差し出した。    「ありがとう。」            「じゃ、中に行こう!」         「うん。」               中へ進んでいくと、行きなり若い女の子が リナを見て声を掛けた。         「リナちゃん!」            急いで側に来た。            「リナちゃん、来てたの?うわぁ、本当に凄い久し振り!リナちゃん、最近全然来ないからどうしたのかと思ってたよー!」    「あっ、まゆみちゃん。」        「リナちゃんが来ないとつまらないよ〜。ねー、又来てよ。又、前みたいに来てよ〜。」「うん、ありがとう。来るよ!」     「本当だよー、絶対だよ?!」      「うん、大丈夫。来る、来る。」     「うん!じゃ又後でね!」        吉永はこの様子を、リナの横でジッと見て いた。また少し歩き出す。        「リナちゃん、お久しぶり。」       若い男が横を通りながらリナに挨拶をした。リナも返事をする。若い男はリナにはニコ ニコしながらも、吉永が一緒にいるのを見ると嫌そうに一瞥して去って行った。又少し 進むと、四人の女の子のグループがリナを見て手を振る。              「リナちゃん!」            リナも手を振り返す。酒を飲みながら進む。少し酔ってくる。            「リナちゃん!」            又違う男女のグループが声をかけてきた。 リナは返事をしながら投げキスをした。彼等も同じ様に投げキスをする。吉永はこうした様子をじっくりと観察していた。     「アッ、ここに座ろうよ、吉永さん。」   リナが空いている席を見つけで急いで腰を 降ろし、吉永へも早く自分の横に座る様に促した。吉永がそこに腰掛ける。そして、彼は廻りの状況を確認した。         廻りの席、目の前や横ではタバコを気だる そうにふかしている二人の女の子、その横では黒人の男が若い女の子に耳打ちしながら 二人で親しそうにしている。又その横では 日本人のカップルが手を繋いで黙っている。又その横や、自分の横では白人や黒人の男が、日本人の女の子とキスをしている。これ等の状況を素早く吉永は見て取ると、少し 呆れた様な顔をしながらグラスを口へと運んだ。                  あ~ぁ、性がないよ。だって吉永さんがどうしても来るって言ったんだから。これで私も変に思われちゃうんだろうな。そんな事を 思っていると好きな曲がかかった。    「アッ、吉永さん。この曲、私大好きなの!」                 リナが思わず叫んだ。吉永はリナの顔を見て嬉しそうに頷いた。           「じゃ、踊ろうか?」          「エッ、踊るの?」           リナは吉永が踊るだなんて思わなかったので、驚いた。              「うん、踊ろう!」           そう言うと吉永はリナの手を引っ張ってフロアへと連れて行った。そして二人は、廻りの連中に混じって踊り出した。一曲、二曲と踊り、その後に、チークがかかった。リナは席に戻ろうとしたが、吉永がそのまま踊ろうと言い、身体を近づけた。それで、半分照れながらもリナも身を預けて、優しいロマンチックな音楽を聞きながら、ゆっくりと踊った。そして席に戻り、又酒を飲む。一杯を空けると吉永もグラスが空だ。         知っているボーイが注文された飲み物を運んて来た。もうカウンターへなんか行って並びたくないし、吉永さんには行かせられない。じゃ、頼んじゃえ!          「石野君!」              聞こえない。もう一度呼ぶ。駄目だ。めちゃくちゃ混んでるからね、音楽はガンガン  かかってるし。又、名前を叫ぶ。やっと聞こえた!石野君がこちらを振り向く。すると、急いで側へ来てしゃがんだ。       「リナちゃん?リナちゃんだ。久し振りー!最近全然来ないじゃない?どうしてたの?!もっと、前みたいに遊びに来てよ〜。リナちゃん来ないとつまらないから。」      石野が親しそうに話しかけた。又、吉永が 観察している。             「うん、一寸来れなくて。でも又来るから!石野君、ロングアイランドアイスティーを 二つくれる?」         

「うん、分かった!直ぐ、持って来るね。」石野はそう言い、他の注文を一通り取った後、戻って行った。そして少しすると、注文した物を二つ、リナの前に置き、ニコニコしながら戻って行った。リナは一つを吉永へ渡した。                 「吉永さん、さっきのと同じで良いよね?」「うん、良いよ。」            そうして飲みながら、音楽に合わせて身体を揺すった。好きな曲がかかるといちいち吉永の膝を揺すったりしながら、興奮して知らせた。すると吉永もリナの顔を見て、嬉しそうに頷く。                そしてしばらくすると大勢が立ち上がり並び順始めた。あ~、そうだ!リナは急いで自分も立って、吉永に一緒に列ぶ様に言うと、 何が何だか分からないと戸惑いながらも吉永は自分の後ろに並んだ。         そして列はどんどんどんどん前に進み、ある一角へ。入り口の近くの一角には、サンドイッチやフルーツが大皿に沢山盛ってある。皆が順番に好きな物を小皿に取る。リナ達も取り分けて席へ戻った。食べながら、又身体を揺すりながら音楽に聞き入る。      何か凄く幸せ!そんな風に感じた。相変わらず、リナを見ると顔見知りの人間達が親しそうに近くに来ては挨拶をしたり、話しかけたりする。中にはアメリカ人もいた。あぁ、横須賀ベースの連中かな?誰だっけ?    しばらくすると、軽く腕を触られてリナは上を見た。若い黒人の男の子が声をかけてきた。                  「一緒に踊らない?」          「ごめんなさい。」            「ねー、踊ろうよ。」          「私、連れがいるから。」          「良いじゃない?踊ろうよ。」      「私、連れがいるから。ごめんなさい。」  その青年は、吉永の事を見た。何だか連れだとは思っていない様だ。 

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