第21話
「い、いいよ〜、吉永さん。」 「どうして?だって前はよく来てたんでしょ?だったら何故そんなに嫌がるの?」 「嫌がってなんかないけど!」 「だったら行こうよ。」 吉永が又いつものしつこさを出した。何で いっも凄くしつこいんだろう?やっぱり警察の人だからかな?それとも、母に例の件に付いて話したかって、さっきは食事の時に何にも聞かなかったから安心していたけど、もしやこっちが何にも言わなかったから怒ってるのかな!でもそんな事無いよ、だって只言えば良いだけだもの。あの件、お母さんに話した?って。だから、もしかしたらまだ待っているのかな?だって、やっぱり子供を産むって事は凄く大きな事だもの。ましてやうちは未婚だよ、それをその未婚で産んだ子供に又未婚で子供を産む様に聞いてる訳だからね…。 だから、多分此処には本当に入りたいんだろうな。だけど、入ったらびっくりするん じゃ…。絶対そう、びっくりするよ。だって此処は、一寸普通のディスコとは雰囲気が 違って、かなりワイルドっぽい所だから。皆、普通そんな風に思うみたいだから。 「ねー、リナちゃん。早く行こうよ。」 「吉永さん、本当に行くの?」 「うん、だからさっきからそう言っているよ。」 「あのね、じゃ行く前に言っておくね。此処って少し普通のディスコとは感じが違うのの。」 「うん、それで?」 「だから、一寸普通の人はびっくりしちゃうっていうか…。私は凄く好きだけど、嫌な人は凄く嫌っていうかね。」 「でもリナちゃんは好きなんでしょ?」 「うん、私はそうだけど。」 「だったら、僕だってリナちゃんが好きな所を見てみたいよ。」 「でも、もし嫌だったら?」 「そんな事ないよ!だってリナちゃんが好きな所を、僕が嫌うなんて事無いと思うよ。」「だけど、本当に、何て言うのかな〜。」 「さぁ、行こう、行こう!」 「分かった!じゃ、本当に入るんだよね?」「うん、そうだよ。」 「じゃ、入ろう。」 「リナちゃん、先に行ってよ。付いていくから。」 「エッ、先に?」 「うん。」 「分かった。」 何で先に行かないんだろう?変なの。自分が先に行けば、こっちが逃げちゃうとでも思ってるのかな?リナはそんな事をチラッと思いながら、暗い細い階段を降り始めた。 「吉永さん、足元気を付けてね。」 「うん、大丈夫。」 階段を下がりきり、ドアを開けた。中へ入る。 わぁ、懐かしい!本当にしばらく来なかったからなぁ。もう幾ら来ててもロクな男がいない、と言うか自分はいっもロクな男と知り合わない。だからもうしばらくは諦めてたんだ。だから最近は来なかったんだけど、まさか今日こんな形で吉永さんと此処に来るだなんて! リナはつかつかと慣れた感じで歩いて行った。 アッ!進藤さんだ。ヤバい。進藤さん、何か声を掛けてこなきゃいいけど。そう思いながら、フロントのチケットを売っている所ヘ 歩いて行った。 茶髪で顔が真っ黒く焼けたイケメンが顔を 上げた。リナを見る。 「わぁ、久し振り〜!元気だった?」 「うん。」 「何、今日一人?」 そう言って一寸意外そうな顔をしながら、 チケットを一枚渡そうとした。 「あっ、違う!連れがいるから。」 リナが慌てて言った。進藤が、エッ?っと いう顔をしながら後ろを見る。吉永は少し 離れていたが、リナの側に堂々と歩み寄って来た。 ジッと進藤の顔を見る。進藤は、何か威圧 された様に吉永の顔を驚いた様子で見返した。もう三十代半ば位の年で、そんなに若い男でも無い。元はモデルをしていたという、見栄えの良い男だ。そして週末の二日間は、ここでチケットを売るアルバイトをしていた。その進藤が、吉永の事を何か威圧された様に、驚いて見ている。やっぱり吉永さんって凄いな…。そんな事を思っていると直ぐに進藤が、二名様ですね、と言ってチケットを二枚、財布を出した吉永ヘ渡した。吉永が受け取る。そしてリナと吉永は少し奥ヘ進み、リナはロッカーを使うと言った。そして、 上衣とバッグを中に入れた。 「吉永さんも上衣入れる?」 「うん、僕はいいよ。」 「そう?分かった。」 リナはロッカーの鍵をジーパンのポケットに入れようとしたが、直ぐに吉永に聞いた。「吉永さん、ロッカーの鍵持っててくれる?」 前に一度だけ中で落としてしまい、探すのに大変な思いをしたのを思い出したのだ。だから、今日は頼りになる吉永に持っていてもらおう。 「あぁ、良いよ。」 吉永が快く返事をして受け取る。 「無くさないでね?無くすと大変だから。」 一応は念を押す。 「大丈夫だよ。」 ニヤッと吉永が笑う。 「吉永さん、ここ段差があるから注意してね。」 「うん、大丈夫。」 そんな事を言いながら奥へ入って行く。
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