第20話

二人は山下町方面へと、ぶらぶらと歩いた。段々と暗くなってくる。そうしてふと気付くと、以前年中通っていたディスコの前を偶然通った。そこで思わず言ってしまった。  「吉永さん、私ね、前ここのディスコによく来ていたんだよ。」           「そうなの?」             「うん!」               そう、リナはここサーカスの常連だった。 できた時から足繁く通った。家が割と近いのと、来るお客に外国人が多い。米軍からの米兵達。そして、特に黒人が多い。それは、 リナも大好きな黒人音楽をかけるから。だから殆ど週末はここにいた。その他にもニ、三違う所へも顔を出してはいたが。     リナが何故こうした店に通うのか。それは、楽しいからという理由だけでは無い。大きな理由が他にあった。彼女は、アメリカ人と 結婚がしたかった。したくてしたくてたまらない…。彼女に取ってそれは人生最大の目標。生きている唯一の絶対的な目標だった。アメリカ人と結婚すればアメリカに行ける。そしてそこにずっと住める。日本に住まなくても良い。これが彼女の目標だった。小さな時からの。おそらくは、六歳位の頃からの。なので、どんな事をしてでも彼女は早くアメリカ人の男をゲットしなければいけない。 だから彼女は毎週殆ど土曜日に、又たまに 金曜日に、殆どオープン時から友達といた。リナの友達の彼女達もアメリカ人狙いや、 アメリカ人と付き合ったり付き合っている女の子達だ。そして年中通っていると、リナは店の従業員や他の客達に知られる様になっていった。皆、彼女に声をかける人間が多くなった。相手の名前は知らないが向こうは気さくに名前を呼ぶ。声をかけてくる。此処ではもうそれがリナには当たり前になっていた。此処や、以前に通っていた赤坂見附にあった、やはり外国人がとてつもなく多かった ディスコ、ビブロス。そして横須賀米軍基地に有る通称A Club(エー クラブ)こと、クラブアライアンス。そしてドブ板通りの数々の外人バー。そこらでも割とそうだったが。                  とにかく、リナはウッカリと、吉永に此処ヘよく来ていた事を言ってしまった!急いで、「じゃあ行こう。」と言ってその場所から 離れて前へ進もうとすると、吉永が動かない。そのまま立っている。リナは焦った。 「吉永さん、何やってるの?早く行こう。」早くここを通り過ぎて、どっか落ち着いた バーにでも入ってゆっくりと飲もう、リナはそう思った。だが吉永は興味を持った様だ。そのまま、ディスコに入って行く細長い階段を物珍しそうに上から見ている。     「リナちゃん、行ってみようよ。」     彼はそう言った。

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