第19話

今日は土曜日で、今働いている店、雲母は休み。土日は休みだから嬉しい。以前は、週末もやっている店で働いている時もあったから。 そして今日は夕方から吉永とデート。関内駅で会うと、吉永は直ぐ近くのステーキ屋のスエヒロヘ連れて行った。予約を入れていたと言う。上品で静かな店内で、美味しいステーキをいただく事になった。店はまだ混んていない。こうした店で吉永と二人切りで食事をするなんて何だか本当のデートなんだな、リナはそう思い、少し緊張しながら、 美味しい肉を味わった。幸い、注文も自分が先だったが、上手くできた。肉の硬さも、 いっものミディアムレア。これは、こういう時はいつも必ずそう。母がこれが一番美味しいと教えてくれたし、余り硬い肉は好きではない。そしてグラスワインを飲んでいるから、段々と少しずつリラックスしてきて、 会話も弾んだ。途中、吉永がジッと驚いた様に見入る事が何度もあった。       「吉永さん、どうしたの?」       「いや、別に。」            「何かさっきから見ているから。」     何度目かの時に、リナは聞いてみた。   「ううん、只リナちゃんは凄く食べ方が慣れているんだね。」           「エッ、そう?」            「そうだよ、僕も何度か、アメリカ人達と会食をした事があるけど、全く同じ様な食べ方だからね。」              「あぁ、うちはママが物凄く躾とかに厳しい面があったから。だから小さな時から、ナイフとフォークの使い方も教えられたから…。「ふーん、そう。」            吉永は老人の給仕に、ステーキソースはあるかと聞き、持って来させた。       「アッ、これ?!」           リナはその瓶を見ると嬉しそうな声を出した。給仕もその様子にとても嬉しい顔をした。吉永がリナの様子をジッと観察して  いる。                 「吉永さん、これ!」          リナが興奮しながら言った。       「これ、アメリカのステーキソース!嘘、これ日本にあるの〜?!嘘みたい。日本では初めて見た!!うわぁ、これ日本にあるんだね〜?!」                リナの興奮して喜んでいる姿を吉永はやはりそうかと、満足そうな様子で見ていた。給仕がリナの横にそれを置くと、リナが礼を言った。                  「ありがとう!」            給仕は驚いたが、嬉しそうに、一礼した。吉永がすかさず言った。「彼女、アメリカにいた事があるから、これをよく使っていたんだよ。」                  給仕が嬉しそうに、「あぁ、作用でございましたか。」と言うと、又一礼して離れた。 「そういやリナちゃん、アメリカに留学していた事があるんだよね。」        「うん、そう。三年位かな。」       リナが高校を出ると、やっと念願のアメリカに住める事になった。母にどうしてもアメリカに行って、住んでみたいとずっと頼んでいたから。最初はそれでも駄目だと思っていた母だが、リナの執念に、やっと仕方なく承諾してくれた。そして、自らアメリカのカリフォルニア州に籍を置く日本のビジネススクールを探し出し、そこの説明会にリナを連れて行った。そして一年間の留学生活ヘ申し込んでくれた。ビジネスと言っても、全てが英語を習うという物。英文法から英会話等を習うという物だ。授業は午前中だけ。リナは午後からの時間を正直持て余す事が多かったが。だがそのおかげで、一生懸命に毎日勉強をして、かなり良い点数でTOEFLに受かった。 そしてアメリカの、割とその廻りでは良い短期大学に入れた。だが、卒業する前に母が執拗に戻る様に命令して来た。帰らなければもう送金はしないと。生活費や学費を払わないと。当時は三年間アメリカに居住したら、 アメリカの永住権を申し込む資格がもらえた。リナは後二ヶ月程で三年に達したから、申し込めるチャンスがあった。だからその事を何度も何度も手紙に書いたのだか聞いてもらえなかった。電話でも何度か話したが、 やはり相手にしてもらえず、丸で糠に釘だった。そして仕方なく帰国。帰国してから、母がその永住権(グリーンカード)の事を何だか分からなかったのを知り、唖然となった。幾ら説明しても何を言っているのか母は丸で分かっておらず、又、丸で気にしていなかったのだ!米軍基地に働いているのだから、 一寸一言、誰か廻りのアメリカ人に聞いて もらえれば何の事か直ぐに分かっただろうに…。そして母は必死に、リナを横須賀の 米軍基地に入れたがった。理由は簡単!自分の知り合いの娘が入ったから、自分も子供を入れたかったからだった。そして、とにかくリナは入った。無理矢理に入れられたという感じだった。そして横浜からへ通う事になった。リナは当時の事を色々と、その束の間に思い出し、不愉快になった。       「リナちゃん、どうした?」       「何でもないよ。」           「そう?」               二人はそのままゆっくりと食事をして、店を出た。給仕の老人が店の入り口で送りながら、是非又来てくれる様に何度も言った。 リナはホロ酔い気分で、何かとても楽しくなった。さっきはいっ時、凄く嫌な気分になったけど。                でも今はとても気分が良い!やはり吉永さんと一緒だからだし、料理は素晴らしかったし、給仕の人もとても親切で優しかったから。本心、又来て欲しいと思ってくれている態度だったし。             外は…風も無く、暖かかった。季節は秋。 だけどそのままずっと歩きたい気分だ…。 吉永の腕に自分の腕を掛ける。歩き出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る