第10話
その日のお店も終わった。吉永が外で待っている。手を繋いだ。歩き出す。 「今日は余り寒くないし、歩いて帰るから。駅には行かないから。」 「そう。」 リナはそのまま帰るつもりだった。外で会うならもっと早い時間に、この前のおでん屋の時の様に会う。その方がゆっくり会えるし、吉永は東京まで戻るのだから彼自身もその方が良いだろう、そう思った。それに、気分が向けば、よく自宅まで歩いて帰った。駅で三つ目の所で、そこから又十五分位歩くと自宅だったが、歩くのが割と好きな質だった。それで二人は手を繋ぎながらぶらぶらと横浜公園まで歩いた。そしてベンチがあったので、吉永が座らないかと言い、二人は腰掛けた。そして色々とリナが話した。吉永は割りと大人しい男で、余り自分の方からは話さない。話されれば普通に会話はするが。 「それでね、本当に頭に来ちゃうの、翔子ちゃんって!だって、冨貴恵ちゃんと三人で飲みに行ったらね、どうしてもって言って、変なボーイズバーなんかに連れて行くんだよ!」
「ふーん。」 「私も冨貴恵ちゃんもそんな所行きたくなかったの。だって高いし、普通に居酒屋だとかショットバーだとかで、自分達だけで飲みたかったのに。でもど〜うしでもそこに行きたいって言って、凄く面白いから行こうって言ってさ!」 「で、どうだったの?」 「全然つまらないの!いつも翔子ちゃんが呼んでるっていう男の子が来てね。だけど全然カッコよくなんかないし。どこにでもいる普通の子って感じでさ。」 「そうなの?」 「そう!しかもこっちは三人なんで、その子がもう一人呼んじゃって。それもやっぱりカッコ良くなんかないし。もう本当に凄く嫌だった~!」 「大変だったね。」 「そう。つまらないけど仕方無いから話してるって感じだったんだから。」 吉永はリナが話す顔をジッと見ながら聞いている。 「それで翔子ちゃんだけが一人で喜んで、盛り上がっちゃってね。」 「うん。」 「で、とにかくそれでもやっと何とか一時間位で帰れる事になってね。多分翔子ちゃんも私達が内心嫌がってるのが分かったのかなぁ。」 「じゃあ良かったね。」 「ううん、良くないの!だって、一人五千円も取られたんだよ!!」 「そうなの?」 「そうだよ、酷いでしょ?だって普通に他の所で飲めばそんなお金取られなかったもん。もっと幾らでも安く飲めたよ、居酒屋とか行けば。もっと普通に色々と話ができたし。」リナは本当に怒っていた。 「もう本当にお金の無駄だった!それで翔子ちゃんはもうそのまま帰っちゃたんだよ。子供がいるからって言って。」 「そうなの?」 「うん、女の子がいるの。小学校三年生の。」 「そうなの。じゃ、それでどうしたの?」 「頭に来たから冨貴恵ちゃんと飲み直したよ!居酒屋に行って。冨貴恵ちゃんも凄く怒ってた。あんなにつまらなくて、あんなお金取られて、本当に馬鹿みたいだって言って。」 「大変だったね。」 「だからもう翔子ちゃんとは飲みに行くの止めようかって話したんだ。もう二度とごめんだから、あんな所であんなお金使うの。五千円なんて勿体無いし、酷すぎるよ!!大切なお金を、あんな所で無駄使いできないからね。」 リナは興奮してそう言った。前の店、ドミンゴでのもう一人の友達、翔子の事で怒っていた。すると吉永が財布を出した。 「リナちゃんはそんな思いをしたから凄く怒ってるけど、もうそんな事は忘れちゃって。」 そして財布から一万円を出した。 「ほら、僕がその分をプレゼントするから。もうこれでその事は忘れよう?もう今度はそんな所に行かなければ良いんだから。」 リナは驚き、困った。 「良いよー、吉永さん。そんなつもりで言った訳じゃないんだから。只頭に来ただけなの。翔子ちゃんが無理矢理あんな所に連れて行くから。」 「ハイ、リナちゃん、受け取って。」 リナは困ったが、同時にその一万円を欲しいと思った。だが、なんとなく浅ましいとも思った。どうしよう?そして目の前に差し出されたその一万円札からパッと目をそらした。「駄目、吉永さん。やっぱり貰えない。」 普通なら別にチップ位は貰う。大体千円なんていうのが多いかな。たまには一万円だとかもあった。だが今の話の流れから、吉永からこのお金をもらうのは何か違うと思えた。「良いから。」 吉永はリナの手に一万円札を握らせた。
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