第8話

フーっと息を吐き出して、リナが言った。 「吉永さん、ごめんね、こんなになっちゃって。だけどもう大丈夫だから。」      そう言って立って見せた。        「本当に?」              「うん、もう平気。」          「じゃ、もう行く?」          「後もう少しだけ座っていて良い?」   そう言いながら又座った。        「良いよ。」               そして、まだ半分程入ったウーロン茶を少し口に含んだ。そして何気なくクレープ屋の方を見た。吉永が聞いた。         「リナちゃんも、食べる?さっきは冨貴恵ちゃんがどうしてもって言って食べたけど。一口位食べたい?」            「全部は入らないよ、だけど今は気分が治ったから。少しだけなら、甘いの食べたい。」吉永が何の味が良いか聞いた。      「チョコレート。」           「待ってて。」              直ぐにチョコレート味のクレープを持って来た。軽く口元に差し出す。小さく、一口噛んだ。                  「美味しい。」              吉永も噛み付いた。           「クレープなんて何年ぶりだろう。」    そう言ってニッコリと笑った。又リナに食べる様に差し出す。顔を横に振る。     「ごめんなさい、もう…又変になったら困るから。無駄にしちゃったらごめんなさい。」「良いよ。」               そう言いながら吉永はクレープを食べ続けた。                  「ウーロン茶、飲む?」         吉永がウーロン茶を受け取り、ごくごくと飲んだ。                 「美味しいね、これ。」、と感心している。           「飲んだ事ないの?」          「うん、缶のは初めて。正直こんな風にウーロン茶が売ってるのも最近知った位。」  「そうなの?!」            リナは驚いて、その精悍な顔を見た。色白で自分と同じだが、とても黒くて太い、しっかりとした形の良い眉をしている。きりりとした真っ黒い目。その目が笑いながら、ウーロン茶の缶を見つめると、又それを口へ持って行った。どうやら普通の中華料理店でしかウーロン茶を飲んだ事がない様だ。それでこの缶のお茶をゆっくりと味わっている様だ。二人はそうしてしばらくそこに座っていた。 「じゃあもうそろそろ行こうか。送って行くよ。今日はもう真っ直ぐに帰った方が良いからね。」                 二人は立ち上がったが、その拍子にリナは少し足元がふらついた。吉永が直ぐに支えた。そしていきなり腰の下ヘ手を回すと抱き抱えた。                  「一寸、吉永さん!」          リナが叫んだ。             「嫌だ、降ろして!!」         だが吉永は無言でリナをお姫様抱っこをしてそのままタクシー乗り場の方へと歩き出した。周りの人間が驚いて見ている。    「嫌だ、恥ずかしい。」          「何も恥ずかしくなんかない。」      吉永は下ろすつもりは全く無いらしい。仕方ないのでそのままでいながら聞いた。   「あの…重たくない?」         「全然。」                そのまましっかりと歩いて行く。リナは何となく嬉しくなった。なんだかとっても頼もしい。こんな事、された事無い。父親がいないリナにはこんな経験は子供の時から無いから。丸で吉永が自分の半分父親、半分恋人の様な感覚を味わった。そして自然と、吉永の肩に廻した腕に少し力が加わった。

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