第6話

横浜駅で吉永と落ち合い、冨貴恵を待った。十分位すると冨貴恵が来た。       「ごめん、ごめん!遅くなっちゃって。」  小走りでこちらへ近付きながら、謝った。「あぁ、来たー!」           リナが嬉しそうに言った。        「吉永さん、これ冨貴恵ちゃん。」    「冨貴恵です!どうも初めまして。今日はどうもありがとうございます。」       冨貴恵が丁寧に頭を下げた。       「あぁ、どうも。吉永です。」       吉永も愛想良く挨拶をした。       「じゃあ行こうか。」           三人は結局、西口に当時沢山出ていた屋台のおでん屋の一つへ行き、丸椅子に腰掛けた。吉永が右端、リナが真ん中、そして冨貴恵が左側。何にしようかな?そう思っていると、吉永が好きな具を二つ注文した。迷いながらリナも、そしてすぐさま冨貴恵も好きな物を言った。その屋台には最初は自分達三人だけだったが、後からは一人の初老の男が吉永の横に座った。三人は皿に入ったおでんを食べながら軽く雑談をする。そして皿が空くと又欲しい物を注文した。おでんと一緒に日本酒も飲んだ。吉永が注文すると、私も!と冨貴恵が言い、リナも飲むことにした。だってやはり屋台のおでんには日本酒が合う。好きではないがうんと嫌いではないし、ムード的にはやはり飲みたい!飲んでいればやはり酔うから気持ち良い。 二皿目を皆が平らげた。もうお腹一杯!みんなもそうかな、じゃこの次は何処かへ飲みに行くんだよね。何処に行くんだろう。居酒屋か何かで飲み直すのかな。そんな事を考えながら聞いてみた。  「吉永さん、私もうお腹一杯。吉永さんは?」                 「うん、僕もそうだね。」         じゃあもうそろそろ出ようか、なんて思い、吉永がそう言うのを待っていると、いきなり冨貴恵が叫んだ。           「後、ガンモとちくあぶ、ごぼう巻き下さい!」                 「はい。」                おでん屋の親父が返事して、よそう。   「冨貴恵ちゃん、まだ食べるの?」    「うん。だって凄く美味しいんだもん。もう幾らでも入っちゃう!」         リナは驚いた。吉永は知らんぷりしている。冨貴恵は又嬉しそうにおでんを頬張り始めた。そして呆れているリナに言った。   「リナちゃんももっと食べなよ!」   「いや、もう入らないよ。」       「大丈夫!もう少し位食べられるよ。せっかく来たんだもん。おでん屋さんのおでんってすっごく美味しいし。もっと食べた方がいいよ〜!」                そして吉永を見て、「いいですよね、吉永さん?」と聞いた。            「あぁ、どうぞ。」           「ほら、吉永さんだってそう言ってるし、リナちゃんももっと食べよう!後一つ位なら平気でしょ?」              しつこく言われているうちにリナも段々とその気になった。             「じゃあ、後一個だけ!」        そして練り物を一つ注文して食べた。だが、食べ終わるや否や、ムカムカしてきた。な、なに?こんなの初めて。もの凄く気持が悪い!!最悪。体を前に傾けながらはぁはぁと息をすると、吉永が直ぐに横を向き、真剣な表情で見た。おでん屋の親父も気付いてチラチラと見ている。冨貴恵は前を見ながらまだ注文したそうだ。リナの様子に気付いていない様た。                「大丈夫か、リナちゃん。」        この時は既に、冨貴恵に習い、吉永はリナを本名で呼んでいた。          「気、気持悪い…食べ過ぎたみたい。」  「とにかく出よう。」           吉永が直ぐに精算した。冨貴恵の方からだと彼女が立たないと出られない。吉永の横に座っていた初老の男も心配そうにこちらを覗き込んでいる。              「お嬢さん、大丈夫ですか?」     「少し食べ過ぎたみたいです。」      手短かに吉永が返事をしながら、リナの腕を掴む。                 「出よう。」               冨貴恵が仕方なくどく。そして吉永はリナを、近くの、コンクリで囲ってある花壇の縁へ掛けさせた。冨貴恵も吉永の近くに立っている。                 「大丈夫、リナちゃん?」       「う、うん。」             「薬を買って来よう。何処かに薬局は無いのか?」冨貴恵の方を見た。       「え〜っと、どこかにあったと思いますけど。」                「だ、大丈夫だよ…。休んでれば。」    リナが苦しそうに小声で言った。     「いや、薬を買って来よう。冨貴恵ちゃん、付いていてくれるか。」         「はい。」               「大丈夫、吉永さん。食べ過ぎだから、休んでれば治るよ。」リナが言った。     「いや、薬が必要だ。行って来よう。待ってて。」                 「でも…。」              吉永が薬屋を探しに行こうとすると、冨貴恵がいきなり叫んだ。           「吉永さん、あそこ!あそこにクレープ屋が出てます。ね〜、クレープ食べましょ?!」吉永が呆れて冨貴恵を見た。       「リナちゃんは大丈夫ですよ、一寸休んでいれば。只の食べ過ぎだから。リナちゃんもそう言ってるし。」             リナは無言で苦しがっている。そして内心、冨貴恵の言動に驚き、呆れた。

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