第4話
「それでね、吉永さんとおでん食べに行く事になってね…。なんか一寸緊張するんだけどさー。だって二人っきりだよ。なんか他のお客さんとは違った雰囲気だしね。あぁ、どうしよう、富貴恵ちゃん!」 リナは友達の冨貴恵に話しかけた。彼女はリナが前に働いていたお店のホステスで、リナよりも三つ年上だ。そして、ホステスとしてはかなり太めだ。リナよりも前から働いていて、リナがそのパブ、やはり関内にあるドミンゴに入店した当初は余り親しくなかった。どちらかというと、何か意地悪い感じに思えて苦手だった。 だが、あるきっかけを通して急に親しくなった。それは、ある時偶然同じ電車に乗り合わせた時だ。その日は確か店が休みの日で、夕方だった。何処へ出掛けたのかは忘れたが、リナは外出をして、帰る途中だった。電車に乗り、偶然立った所で何気なく前の席を見た。冨貴恵が座っていた。だが彼女はとても疲れた感じで下を向き、丸で自分には気付かなかった。 どうしよう、声をかけようかな?黙ってでもいいかな?別に親しくないし、少し意地悪っぽいし。でも、もしあっちが気付いたら、何で声掛けてこなかったの?、なんて変に思われても嫌だし。ええい、もうしょうがない!「冨貴恵ちゃん!」 思い切って声を掛けた。冨貴恵が顔を上げた。ジッと自分を見ている。しまった、声かけなきゃ良かったかも!そう思っていると冨貴恵がニコニコしながら、「アッ?マリンちゃん!」と言った。 あぁ、良かった〜。嫌がっていない。リナはホッとして、少し会話をした。そして彼女が、他の仕事の帰りだというのが分かった。彼女は複数の仕事を掛け持ちして生活していた。それで、唯一の楽しみだとか趣味は酒を飲む事だと、よくテーブルでお客に冗談の様に言っていた。そしてよく飲んでいた。なので体はドッシリと太っている。だが頭は良く、話もできる。いつも紺のスーツを着て来た。他で事務のパートをしてからドミンゴへは週に三回来ていたので、いつも仕事着のその紺のスーツで出勤した。そしてこの日は昼間の、週末だけしている、飲食店でのウエートレスのパートの帰りだった。冨貴恵は、母と二人暮らしで母を養っていたからだ。 この時、リナは軽く酒が入っていた。そして冨貴恵がいつも持ち歩いている、大きな黒いバッグにお酒を持ち歩いているのを知っていた。偶然に店の更衣室で、その大きなカバンの様なバッグの中を二度程見たからだ。本人には何も言わなかった。だが、それで彼女がいつもカップ酒だとかビールやチューハイを幾つか携帯しているのを知っていた。そこで、聞いてみた。 「ねー、冨貴恵ちゃん。今、お酒持ってる?」 「うん、あるよ!!」 冨貴恵が嬉しそうに返事した。お酒の話になると目が輝く。 「本当?じゃ、一つくれる?」 「うん、良いよ!持ってって。アッ、今飲む?じゃ、開けようか?」 冨貴恵はバッグからカップ酒を一つ出して、蓋を開けようかと聞いた。 「じゃあ、うん。今飲んじゃう!」 「分かった、一寸待って!」 冨貴恵は嬉しそうに蓋を外してリナにカップ酒を手渡した。 「あぁ、ありがと!」 リナは受け取り、一口飲んた。 「あぁ、美味しい。生き返るよ!」 本当は日本酒は余り好きではないが今はとにかく美味しく感じた。せっかく飲んでいたのだが、もう殆ど覚めていたから。補給しないと完全に冷めてしまう、そんなのはごめんだったから。 周りに座っているサラリーマンや老女が驚いて見ている。だがリナも冨貴恵も気にしなかった。そんな事言ってれば気軽に飲めないから、と多分そんな感じだっただろう。 この日のこのエピソードから、二人は急激に親しくなった。そしてよく二人で会って食事をしたりお酒を飲んだりする間柄になった。 そして今日も会った。吉永の事はこの間話した。そして今はおでん屋へ行く事について。「ねっ、リナちゃん。じゃ、私も一緒に行っちゃ駄目?」 「冨貴恵ちゃんも?」 ちなみに冨貴恵は彼女の本名。そして親しくなってからは、彼女はリナの事も本名で呼んでいた。特にリナがドミンゴを止めて雲母へ移ってからは。 「うん、私もおでん屋って行ったこと無いし。屋台のもお店のも。だからリナちゃんと一緒。だから良かったら一緒に行っても良いかな?」 リナは喜んた。 「そうだね、そうしたら私も二人っきりじゃないし。冨貴恵ちゃんがいてくれた方が良いもの!じゃ、とりあえず吉永さんに聞いてみるよ。それで良い?」 「うん、聞いてみてよ!」
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