第2話
おでん屋ヘ連れて行ってもらうという約束を交わしながら、他愛もない話をそれからしていると、時間の経つのは割りと早かった。そしてそろそろ閉店時間。大沼が小杉と吉永ヘ声をかけた。すると吉永が言った。 「一緒に帰らない?」 リナは困った。早く家に帰りたい。何処かへ行きたくない。当然この流れだと、この後飲み食いをしに行く、ということだろう。何かを食べれば太るし、お腹は空いていない。空いていたとしても食べれば太る。又、酒も飲みたくない。やはり同じ理由。それに飲めは中途半端では止めたくないし。とことん飲みたい、なにせ自分はお酒が実は大好き。そして皆、自分が飲むのを知っている人間は強いと言う。かなり驚く人間も少なくない。だから今の店では飲んでいない。飲めないで通している。でないとしつこく勧められたりして面倒だから。一度でも飲めると分かるととことんしつこく飲ましたがるお客やホステスがいるから。前の店では浴びる程飲んでいたので自分のお客のボトルを減らしたいホステスにはとても重宝がられた。皆がこぞって自分を呼んだ。だが、その分どんどんと太った。体にどんどんと脂肪がつき、トイレに行くと尿がオレンジ色。丸でオレンジジュースだった。恐くなり内科へ行くと、毎日大量にウイスキーを飲む為だと言われ、今止めないと身体を壊し、必ず十年もしたら死ぬと言われた。又、酒は太るから止めない限りは痩せないとも言われた。毎日自分の飲む量は、ウイスキーがボトル大体二本近くで、これはご飯を何十杯も食べているのに指摘すると言われた。酒が太らないなんて嘘だと笑われた。なので、それからはウーロン茶に切り替えた。毎日我慢をして。だが執拗に飲ませたがる一部の客やホステス達。なので面倒臭くなり他店へ移り、ここではお酒は飲めないだとか、うんと弱いということにした。そう言っている水商売の人間も以外と多いらしい。なので自然と、お酒を止めてから痩せた躰はそのまま細い。そして今では仕事以外に、たまにだけ飲む様にしている。 なので吉永の誘いは正直困った。いつも真っ直ぐに帰る様にしている。その方が体も疲れないし、前の店での様にアフターで客やホステス達と何処かへ行ったり、ホステスの仲間と食べに行ったりもしていない。 それにこの店は変わっていた。殆どのホステス、ほほ全員がOLのアルバイトで、毎日来ない女の子達ばかりだ。皆殆どの子が、会社へ着て行った服で、どちらかというと地味なスーツ等で仕事をしていた。そして見た目も地味で、綺麗だとか華やかな子はいなかった。ママがそうした子を集めていたのか好きなのか、たまたま偶然なのか…? なので、顔が白人で目鼻立ちがハッキリしたリナは此処では誰とも口をきく人間がいなかった。とにかく嫌がられていた。普通はそんなこともないし、必ず綺麗や可愛い子も当然いるのだが。又、もし顔がたいしたことなくてもスタイルは凄く良いだとか、話が面白くていくらでもベラベラと話せる様な娘がいたりするのだが、この店は一寸違っていた。 なので一度、大沼がママに言っていたことがあった。 「皆、マリンには焼きもちを焼いている。顔が外人だから日本語をしゃべるのがおかしいだとか、馬鹿にしてるんだけどな。だけどそんなこと言っても、自分達より顔は数段上だからな。自分達はどうしてもかなわないから、それが悔しくって仕方ない。だからあんな風にいつも丸で無視してるんだ。どうしてもあの女にはかなわないからな。」と。 だからリナはいつも一人だった。出勤して挨拶をしても誰も返事をしない、無視。毎日ずっとそう。こんな所、何件か働いたけど初めて!いっもそう思ったが、ママも、年中来る大沼も黙っている。何もしない。そんなものだ…。 だが、行けばお金は貰える。なら、そんな こと仕方ない。むしろ、口をきかれて嫌なことを言ってこられるよりも余程良い。リナはそう割り切っていた。 「さぁ、一緒に帰ろう。待っているから。」困ってしまったが、何を言っても吉永は引かない。仕方なく、「じゃあ途中まで。本当に帰らないといけないから。」と言うと、「分かった。」との返事。 警察の人だし大丈夫、そこまで無理強いはしないだろう。仕方なくそう決断してリナは更衣室に着替えに行った。そして普段の服装、長袖のラフなシャツにジーパン、上にジャンパーを着てスニーカーを履いた。店用のワンピースと靴をロッカーにしまい、店の外に出た。大沼達はもういなかった。 「吉永さん!おまたせ。いいよ、じゃ帰ろう?」 吉永は目を見張った。さっきとは丸で別人の様な格好だ。嘘だろ?!、みたいな顔をしてジッと見つめている。 「いいよ、行こう!」、と又言ったがまだ見ている。 ギャップに驚いているのだ。 「あぁ!これ?この格好、変?私、いつも普段はこんな感じなの。」 「あっ、いや変じゃないよ。」 「本当?なんか凄くビックリしてるから。」「いや、何かさっきと丸で違うから。 …じゃ、行こうか。」 そして二人は駅の方へと歩き出した。
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