想い 5
柏本からロッドを受け取った俺は、しゃくりあげて針の掛かり具合を確認する。
根本から折れそうなくらいロッドが撓る。スプールが音を立てて回転し糸が送り出されていた。
そしてかかった魚は一気に沖へと走って行く。
針の掛かり具合は完璧だった。これならバ・レ・る・心配は無さそうだ。
しかしこれ、相当な大きさかもしれない。柏本のビギナーズラック恐るべし!
魚の走る方向に合わせてロッドを倒す。
ラインを少し巻き上げては戻し、また戻しては巻き上げる。
すごい引きだった。それでも少しずつだけど魚は疲れてきたのか、リールを巻き上げれるようになってきた。
時間を掛けてゆっくり巻き上げる。時折海面を跳ねる音が聞こえた。
もしシーバスなら、エラでラインを切ろうとしているはず。
俺は祈る気持ちでリールを巻き上げていた。
30…20…10メートル。いよいよだ。
「柏本、後ろのバックから網を出して」
「うん、わかった。これ?」
すぐに柏本は玉網を取り出してくれた。
「これを渡せばいいん?」
「いや、バックに折りたたんだセットのロッドがあるからそれを組み立てて」
タモ網側がネジになっていて、ロッド側に差し込む構造になっている。
「これかな?」
ロッドと玉網を交互に見比べている。組み立ては大丈夫だろうか。でも今交代をしてロッドを渡すの無謀な感じもする。
「あ、三脚と同じだ!」
柏本は構造を素早く理解して組み立てた。
「やるやん、柏本」
「でしょ?うちだってやる時はやるんよ」
もう獲物はすぐそこまで上がっていた。ほぼ桟橋の下まで来ている。
夜灯に照らされて銀色の魚体が見える。
俺は受け取った玉網を利き手の右手に持ち、慎重すぎるほど慎重にロッドを操り、誘導する。
「バシャッ!!」
獲物は最後の力を振り絞って波を跳ねた。それにタイミングを合わせて下側からタモ網で掬すくう。
「よし!」
ロッドを桟橋の上に寝かせ、俺はタモ網を一気に引き上げた。
お、重い…
タモ網から尻尾が完全にはみ出ていた。
桟橋の中央付近でタモ網を下ろす。
網を体に絡ませたままで獲物は勢い良く飛び跳ねていたが、徐々に大人しくなっていった。
体調80センチ前後で重さは5キロくらいあるだろうか。
通称シーバス。やはりスズキだった。この時期は一番脂が乗ってる旬のい魚だ。
緊張が溶けて、俺はその場に座り込む。柏本も俺の横でしゃがみ込んでタモ網を覗き込んだ。
「すっげーぇこんなでかいの初めて釣ったわ」
「すごーい…こんな大きいの始めてで釣ったんだ」
二人同時に声をあげる。なんか言ったことが同調シンクロした。
俺たちは顔を見合わせて大きな声で笑った。
俺は顔の高さで手のひらを柏本に向けて、目で催促する。
あ!って感じで俺の意図を汲み取った柏本が俺の手のひらを叩く。
ハイファイブっぽくお互いの健闘を称え合った。
「やったな!俺ら」
「うん、うちら頑張った!」
「でもさ、俺が何時間やってても全然釣れんかったのに、なんで柏本は一発で釣れるわけ?俺の立場がないやんか」
「うち、絶対なんかもってるよね!才能あるんかもしれん。あ!そうだ写真撮らせて」
最初に俺がスズキを持ちポーズを決めて撮ってもらった。
次に柏本が必死にスズキを持ち上げ、俺がその姿を撮った。
なんか気分は最高だった。
「明日、うちはみんなに自慢するけんね」
まだ興奮冷めやらぬ様子だった。そういう俺もまだ心臓の鼓動が早い。
久しぶりの緊張感と高揚感だった。
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