フォーカス 一番暑かったあの夏

想い 4

引き上げたルアーに異常が無いことを確認して、俺はまたキャストする。

「あの、苦手とかじゃなくて。どう言ったらいいんか…」

「全然構わんよ。俺、他のやつみたいに愛想よく出来ないんよな。今日も散々、今野を怒らせていたっぽいしなぁ」

「ううん、そうじゃなくて…」

柏本は俯うつむいてしまった。俺なりにフォローしたつもりだったけど、どうもまた落ち込ませたみたいだ。

気まずい雰囲気になってきた。なんか空気が重いや。

俺は沖の方を見ながらロッドを立ててリールを、なんだかうわの空って感じで巻いていた。

ここで冗談でも飛ばせるようなタイプなら場は和むんだろうけど、生憎俺の頭の中には何も浮かんでこない。

そうだ、こういう時って共通の話題がいいはず。

共通の話題って……何？

先生の話はもう終わってしまったし。ここで森本先生の話をしても和むとも思えない。

先生、こんな時授業の内容は全然使えません…。

柏本がちらちらとこちらに視線を送ってきているのを感じていた。

これはあれだ。きっと帰るタイミングを計っているんだろうな。

【お前は思った事を遠慮なく言い過ぎんだよ】

さっきゆき兄に注意された事を思い出す。またやっちまった。

柏本が立ち上がった。

「うち…そろそろ……」

「あ、そうだ柏本さ」

遮さえぎるように俺は話しだした。

「何？佐藤くん…」

「あのさ、えっと、そのさ」

俺の脳細胞が全力で回転する。何か気の利いたセリフを吐き出せ。頑張れ俺！

そして出て来た言葉が

「釣りやってみる？」

だった。ダメだろ俺って…

だけど柏本の反応は予想外だった。

「え…うん！やってみたい！」

柏本の顔に瞬時に笑顔が戻った。

その柔らかな笑顔を見て、俺に胸の一番奥の方に日焼けした後のような疼きを感じた。

あれ？なんだこれ…

俺の真ん前に柏本が立つ。身長差があるから少し見上げるようにして俺を笑顔で見ていた。

「じゃ、じゃあ竿持って」

手に持っていたロッドを柏本に渡して、俺はレクチャーを開始した。

2.3回ほどの練習で柏本はもうキャストのコツを掴んだようだった。

ロッドの反動を利用して、勢いよくルアーが沖へと飛んで行く。

「強弱をつけてリールを巻くといいよ」

「こんな感じかな？」

柏本が軽くロッドをし・ゃ・く・っ・た・ときだった。

「きゃっ」

なんの前触れもなくロッドが撓しなる。

「え？え？竿引っ張られてるよ佐藤君」

柏本が体ごと海に引っ張られだす。ロッドが強烈に曲がる。

「嘘やろ、まじかよ！。ちょい踏ん張れ！」

俺は背後に周り柏本の体を支えようとした。同時に柏本が後退りする。

ドンッって感じで俺らの体がぶつかった。

背中に俺を感じたのか柏本は真上を見上げた。俺も真っ直ぐ見下ろし柏本を見た。

すげー近くで目が合った。

なんか後ろから柏本を抱き締めるような形になってしまった。

やべっ。柏本の顔も薄暗い中でも分かるくらに紅潮してた。

「あ、あのさ。代わろうか？」

「う、うん。お願い」