灯(ひかり)  3

隣のバーベキューコンロが空いたこともあって、2ヶ所を使って俺達はバーベキューを楽しんでいた。


写真部の例の3人と、1.2年の後輩の女子もいた。


後輩の女子達は余っていたカレーライスを持ってきてくれた。


手ぶらで堂々とやって来る同級生3人とは大違いだ。


やたら後輩と目が合いながら甘めのカレーを食べていると、意外な光景が見れた。


隣のコンロで柏本と大北とゆき兄が並んで座った。


大北は黙々と食べ続けていて、柏本とゆき兄が少し顔を寄せ合って話してる。


柏本の手に持っている紙皿の上には山のように焼けた肉が乗っていた。




そういやさっき、やたらと柏本の事を俺に聞いていた。残念ながら名前すら今日知ったレベルの俺は何も答えれなかった。


あいつを初めて見たとき、ゆき兄少し驚いた顔をしたような気がする。


ゆき兄、ひょっとしてああいう子がタイプなのか?




今野も気づいたようだ。


「ねぇ、お兄さんって年下が好きなん?」


「どうだろう?そういうの聞いたことはないけどな、でも柏本に興味はあるっぽい」


「積極的に話しかけてるように見えるよね佐藤のお兄さん。私には全然声かけてこないけれどさ。それはそうとして、カレー美味しい?」


「ご飯が水分多くてあんまり上手くない。カレーのルーは割と美味いかな」


「あのねぇ…佐藤」


急に今野の機嫌が悪くなる。


「もう何でもいいけどさ、ほんとナチュラルに人をムカつかせる才能あるよね」






俺達の視線に気づいたのか、ゆき兄が戻ってきた。


入れ替わりで今野が柏本の元に駆け寄っていった。きっとどんな事を話したのか探りを入れに行ったんだろうな。


「ゆき兄、柏本が気になるん?」


俺の冷やかしに笑顔を浮かべながら返答してくる。


「そうだな、俺がせめて幸太くらいの年齢だったらな。あはは。いや、実はあまりにも俺の知り合いと似ていたからね、ひょっとして血縁関係でもあるのかなって思って色々聞いてみたんよ」


「知り合いに似てるん? ゆき兄の知り合いに柏本っぽい人いたっけ?」




幼い頃からゆき兄は俺を連れて、自分の友人や知り合いの所へ一緒に出かけてくれていた。


おかげで顔見知り程度の知り合いにはなっていた。でも柏本みたいな雰囲気の人は心当たりがなかった。




「全然、他人の空似だったみたいやけどね…幸太は知らないよ。お前と一緒に暮す前の知り合いだからね。ずっと昔のね…」


「昔かぁ。あ!ひょっとして昔の彼女とか?」


「うん、まあそんな所かな…」


なんかいつもと違ってゆき兄の歯切れが悪い。どうしたんだろう。




「よし、写真部はそろそろ片付けに入れ。そろそろ戻るぞ」


森本が大きな声で終了の合図をする。


写真部員達が一斉に立ち上がり、片付けをスタートさせた。


「俺達もそろそろ終わるか」


兄貴もゆっくりと立ち上がった。


持ってきた食材も底を尽きていた。無事に完食できたみたいだ。


管理室から予め貰ってあったゴミ袋に割り箸や紙皿なんかを詰めて所定の場所に置いて戻ると


もう、残った炭の片付けも終わっていた。


「じゃあ俺達は帰るわ、カレーご馳走さま」


まだ片付けを続けている写真部員達に声を掛けると軽くなったクーラーボックスを肩に掛け俺とゆき兄はコテージへ戻った。




「お腹が苦しい…」


コテージに戻ると俺はリビングのソファーの上で寝転がった。


ゆき兄は俺の向かい側のソファーに座る。


「あの量を全部食ったら、そりゃそうなるわ。幸太、カレーも食べてたろ?」


「だって残すの勿体ないやんか。完食するのが男やしな、しかしカレーのご飯は不味かった」


「ご飯担当は今野って子と柏本さんだったぞ」


「ああ!それでカレー食ってる時に今野が急に機嫌悪くなったんか。俺が飯がまずいって言ったから…」


「またお前は暴言を吐いてたんかよ。ほんといつもいつも」


はぁ、ほんとツイてないな俺は。




ゆき兄がテーブルの上にスルメやサラミとかツマミを広げだした。


「俺は今はいらないで。もう何も腹に入らんし」


「心配しなくても幸太用じゃないから」


そしてグラスもキッチンから持ってきて置いた。


その数は3個。


3個?俺とゆき兄と、あとは?




「もうそろそろかな。お客さんが来る頃は」


「え?誰が来るん?」




まさか……




俺がある人物の名前を言おうとした時、


「コンコンッ」


と玄関がノックされた。


「幸太、玄関開けてきて」


「まじかよ!」


俺はソファーから飛び起きて、玄関へ向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る