第24話
といういきさつを話してはみたものの、やはりと言うべきか、途中の経過についてはあまり話しをしていない。
それから何が起こったのかということについて、だ。ボランティアについての活動や、野球部時代のあれやこれやについてはなるべくであれば伏しておく。あくまででも彼女に話をするのは、神澤敏行という一人の人間の物語だ。
「まあ、それでも、神澤は親父のいう通りの人生を過ごしてきた。大きな犯罪履歴はなし、大学もそれなりの学歴のところへと通い、そして今あいつは警察官としての職務をまっとうしようとしている」
わからない、という顔をしおりちゃんはしており、だよなあという言葉しか俺の中には生まれなかった。
「どうして神澤さんが親御さんのいいなりになって警察官になろうとしたのか本当にわからなくて」
「考えもなしになったとは俺も思いたくなくてな。理由をそれとなしに聞こうと考えてはいるんだが、きっちりと話をつけられていないのが現状さ……。」
そう、俺もあの頃のクラスメイト達と一緒なのかもしれない。あの頃みたいに無茶をし、考えもなしに突っ込んでいた頃と――――逃げているのか。俺は
「逃げずに、立ち向かうってすごく勇気がいるんですよね」
心を悟られたのかと思わず彼女をみると、気恥ずかしそうに彼女は笑っている。「母が亡くなる前に、手術した時があったんです。乳房摘出手術。そんな時、二人きりにしてほしいって父に頼まれたことがあって。今ならわかるんですけどきっと・・・・・・それを望んでいたのは、父ではなくお母さんの方だったと思うんです。女性としてつらい選択ですから。頑張ろうって気丈に母は笑っていたけれど・・・・・・私の前だからだったんですよね」
「しおりちゃん」
男の俺には最後まで想像することはできなかった。その決断力や女性の強さというのは、男のそれとは一線を画している。しおりちゃんの強さはきっと母親譲りなのだろう。なんといっていいかわからず、ただ店内を見渡す。先ほどよりも客の姿はまばらだが、男女のお客が多いのをみると、恭子のことを思わず思い出してしまう。彼女がもし、しおりちゃんの母親のような病気になってしまうとしたら――――俺はきちんと支えることができるのだろうか。子供ができたら? そうなったら俺はどんな父親になるんだ。敏行や、朔の親のように「そう」ならない保証なんてどこにもないじゃないか。
「ままならねえよな、人生って本当に。何度も過去を振り返ることがあるけれど全部自分にとって後悔ばっかりしかねえ。けど――――なんとかそれを減らすことは誰にだってできる」
「そう・・・・・・ですね」
後悔せずに生きる方法なんてのは存在しないだろう。
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