第19話
「悪い、知らなかったとはいえ、失礼なことを言ってしまったな」
少し、落ち込んだ声が聞こえてきて、慌ててリビングを覗く。
「いいんです。今じゃもう、お父さんも、私も母の事を大切に思っていますし。これから店を盛り上げなきゃいけませんから」
笑顔でそう答えて見せると、彼は安心したように微笑み返してきた。
「しおりちゃんは強いんだな」
そんな笑顔で返されてしまうと、ときめいてしまう。
彼にこんな笑顔を向けられる女性はきっと幸せなのだろう。
気まずい事この上ない。出ようとした矢先に、しおりちゃんと、先輩の声が聞こえてくる。しかも話題的には重い話らしい――このまま出ていけば間違いなく水を差す形になってしまうだろう。
朔の事を見下ろす。先ほどまで服を脱ぐのを嫌がっていたくせに、いざ脱がし彼を裸にしてみると落ち着いた。俺らの反応を気にしていたのだろう――騒ぎになるんじゃないかと。
しかし、予想はしていたので俺らはただ黙って彼の入浴を優先させ、さも何も気にしてませんよという態度を示してみたのだ。
その結果なのか、少しばかり楽しそうな様子を垣間見ることができ、今も体のあちこちについた――痣や、痛々しい火傷の跡を鏡越しに後ろめたそうな表情で見つめている。
「ほれ、これ着とけ」
子供用の服を彼に渡し、俺はまた扉越しに聞こえてくる彼らの会話に耳を澄ませる。
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