第16話

「朔は今のところ四歳といったところだろうな」

 「相手は今どうしてる? 正直あまりいい予感はしていないんだが」

 「浅井雄二。別にそこらにいるチンピラじゃあない。きちんとしたお堅い公務員様ってところさ。これはキャバ嬢達から聞いてきたことだから、はっきりとしたことはまだ聞けていないが、まあ娘も嫁もいるとかいうやつだ。」

 「じゃあ、不倫ってやつじゃねえか」

憤懣やるせなく返せば、祥太はあっさりとまあな、と返してくる。確かに、現代ではこんなことは日常茶飯事だ。

 「お前が怒ったところでどうしようもないんだが……」

 近江の内心を慮ってか、祥太はサラリとそう口にする。

 「ああ、その通りだと思う」

何をして頑張ったとしても、どうすることもできないことはわかりきっていることである。

「なんにせよ、もう少し情報は欲しいところだろう。俺の方で探っておくからお前らは大人しく幼稚園の先生でもしてるんだな」

 おい、と怒った口調で返そうとした瞬間に通話は途切れた。ということは逆算すれば、四年前に朔の親は出会ったことになる。にしても嫌味なやつだ。俺らの苦労をなんも知らねえくせに。

目の前に丼が二つ置かれ、祥太への怒りを一旦俺は収めると、そのまま丼をすすり始めた。高校時代の時は、部活の連中(とはいっても少数でやっていたもので、試合のメンツはどうしても足りず、他の部活の連中に助っ人を頼んだりしていた)

 あとは、実質的なボランティアという名のお悩み相談みたいなことをしていた。事務の人を手伝ったり、逆に怪我等で試合ができなくなった生徒に代わって俺が助っ人に出たことも幾度かあった。その代わりに、彼らの何名かに今度の試合の助っ人を頼んだり、遅くまで練習できるようになるわけである。ギブアンドテイクの精神だ。

一年くらい経った時ぐらいにそこに神澤が加わり、忌まわしい記憶の連続となっていく。何が正しいのかもわからない状態で突き進んだ。そんな記憶しか残っていない。

 それよりも、と改めてつけ麺をすする。歳なのか、それとも最近食べていなかったからなのか、どうにも腹が重くなってくるような気がする。そして何よりも脂ぎったチャーシューが美味い、しかし重い! こんなにも食えなかったか俺。

 しばし 呆然としつつも夢中で麺と具材、そして何とかスープ割を入れ、スープまで飲み干す。

「……なんとか、ごちそうさん」

俺はそう小さくつぶやいた。

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