第6話 行ってらっしゃい
「そんなの…あんまりだわ。」
嗚咽を混じえながらポツリ、ポツリとこぼすように言葉を放つ。
「泣いているのでありますか。」
チャーリーは少し驚いたが、すぐに元の調子に戻った。カタクリの泣き声とチャーリーの沈黙がしばらく続いた。その間も風は木々を揺らし、たぬきは餌を取りに森をさまよい、カラスは鳥の死骸を啄んでいるのが遠くに見えた。カタクリの泣き声が少しづつ治まっていき、いつしかその声はすっかりとやんでしまった頃にカタクリは口を開いた。
「私、それによく似た夢を随分前に見た気がするの。」
いつもの口調で明るくそうこぼした。
「どんな夢でありますか。」
チャーリーはそう尋ねる。
「今ひとつ覚えてないの、景色の全てに靄がかかってて、でも、その夢の中で男の人が強く強く抱きしめてくれたことは覚えているわ。辺りはざわついていたけどそんなのもお構い無しにいつまでも、いつまでもね。」
カタクリが静かに笑ったのが扉越しから伝わり、思わずチャーリーはドキッとした。
「今の笑い方…少し懐かしい気がしたであり
ます。ジェシカみたいで。」
チャーリーもふふふと笑った。2人の笑い声が山に響いた。ふと、カタクリは言った。
「いいの?仲間が待っているんでしょ?」
その言葉を聞くと、チャーリーはハッとして
「そうであります!上官にまた怒られてしまうであります。それでは、自分はこれで失礼させていただきます。カタクリさん本日は素敵な時間をありがとうございました。」
チャーリーは扉に向かって、敬礼をする。
「うん、行ってらっしゃい!」
カタクリはそう言うと、扉に向かって手を振った。そして、チャーリーはまるでそれを確認するかのように扉を数秒見つめ、仲間の兵士が行ったと思われる方向へと走り去って行った。
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