第5話 回想②
悲劇というのはあまりに突然に姿を表す。
「自分とジェシカがあと少しで街の端へと到達するときであります。」
「ジェシカ、これあげる!昨日作ったんだ。」
木の実と花で作ったネックレスを手渡した。
「素敵…ありがとうチャーリー。」
彼女は首にそれを付けると、満足そうに微笑んだ。
「ふふ、似合ってる?」
彼女がそう聞くと、彼も嬉しそうに頷いた。
二人の間には柔らかで透明な時間がゆっくりと流れていたが。それもつかの間、背後で大勢の悲鳴と銃声が聴こえた。
「なに?今の音…。」
2人はその場に立ち尽くしていた。
そして、やがて尋常ではない空気と喧騒を感じとることが出来た。
「…逃げよう、ジェシカ!」
彼は彼女の手を取り走り出す。
スラム街は大パニックに陥り、街の人々は安全だと思われる方向へいっせいに走り出していた。
「あ、ネックレス!」
人の波に揉まれる中、彼女の首からネックレスが抜けてしまった。
「おい!ジェシカ!」
彼女の小さな手が彼の掌から解かれてしまった。
「ジェシカ!ジェシカ…」
彼の中途半端に大きな体は、彼女のようには人混みを抜けられずに人の濁流に流されてしまう。
「ジェシカ!おい!ジェシカ!クソ…!」
彼女の姿も見えなくなってしまった。
彼は走った、この人混みの中ではどっちにしろ彼女を見つけ出すことは不可能だと考えたのだ。無事を祈ってひたすらに走った。
「自分が街に帰ったのは、それからしばらくした日のことであります。稼ぐ宛もなく腹を空かして我が街へ帰ってきて驚いたのであります。荒れていた街がより一層に酷く荒れ果てていたのであります。何件かは屋根が崩れたり壁に穴が空いていたりして、つい、数日前までかろうじて家の形をしていた建物は完全に瓦礫とかしていたのであります。幸いなことに自分の家はまだ残っていて覗くと母が泣きながら自分を抱きしめてくれたのであります。弟達もみんな奇跡的に助かっていたのであります。そして、隣の家も訪ねたのでありますが、残念ながらジェシカの返事はなく、それどころか家の中は伽藍堂だったのであります。途方に暮れたのであります。それから、今までの生活もままならなくなったので、自分もジェシカと自分を離れ離れにした憎き兵士になる他なかったのであります。」
チャーリーは話の後半になるにつれ、震えた声になった。
「戦争は正しい。そうでも思っておかないと自分の頭がおかしくなってしまいそうなのであります。」
感情を色濃く孕ませた声になっていた。
カタクリは静かに涙を頬に這わせていた。
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