第4話 回想①

少し冷たい風が頬を撫でていて、日差しが森の木々をすり抜けてチャーリーの頬をかすかに照らしていた。


「まだ、自分が子供のだった頃の話であります。」


彼の生まれはスラム街の中にあった。荒廃した街は灰色で、泥水には糞尿が混じっていた。

道端に打ち捨てられたごみ袋からは腐臭が漂い、ガラクタがそこかしこに転がっていて、陽の光さえも遮断する程に高い住居が1箇所に密集して建っていたのであった。言うまでもなく暮らしは驚くほど貧しかったが、不思議と笑顔の耐えない街であった。

彼には3人の弟と2人の妹がいて、母はいたが父はいなかった、5人目の子供を産んで、わずか3年後に日雇いの仕事先で不慮な事故に会い亡くなったのだ。

チャーリーの家の隣には密着するように、彼の昔からの友達のジェシカが住んでいた。


「おはよう、チャーリー。」


「おはようジェシカ、今日はいい天気だね。」

街に入る光は少ないが、四角い空は青々としていた。


「そうね。洗濯ものもよく乾きそうだわ。」


「今日この後、街の1番端に行ってみない?」


「いいわよ。でも、どうして街の端なんかに?」

彼の突然の提案に疑問を持たずにはいられなかった。


「あそこから見える背の高いビルが好きなんだ。太陽の光を受けてキラキラと光って綺麗なんだよ。」

彼は少年のような瞳で彼女を見つめた。


「そうなの?それは楽しみだわ。」

彼女は微笑んだ。


2人はそれぞれの家での役割を済ますと、家から出てきた。


「お待たせ、行こうか。」


「ええ。」

彼女は短く返事をした。


乾いた地面を歩いていく。


「ねぇ、チャーリー。」


「なんだい?」


「この街の外ってどうなってるのかしらね。」

静かな口調でいつものように話しかけてくる。


「きっと外は、面白いもので溢れているんだよ!美しいものとか。母さんから聞いた話では、ここよりも綺麗な街があって豪華な服を着ている人が大勢いるんだって!でも、冷たい人が多いらしいよ。」

楽しそうに、そして自慢げに話すチャーリーに彼女は答える。


「それは、街の方が面白いからじゃないかしら、ここでは街より人の方が面白いから皆それで興味を持つし何より助け合わなきゃいけないしね。外の人はあまりそういう考えを持たないんじゃないかしら。街の方ばかり気になって、人の素晴らしさに気づかないんじゃないのかな。」

ひとしきり喋り終わると「知らないけどね。」と言って少し笑った。


チャーリーはつられて笑った。


「でも、僕ならたとえ外の世界で暮らしたとしても、君に興味がなくなるなんてこと有り得ないのにね。」


「本当に?」


「本当だよ。なんで嘘なんてつくのさ。」

チャーリーはまた笑ったが、彼女が少し赤くなった理由は分からなかった。

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