第2話 創作者

男はまだ聞きたいことがあったが、少女の要望に答えることにした。


「何で旅を始めたの?」

男は少しの間黙ると、答えた。


「妹を探しているんだ。」

男は今までよりもより一層柔らかい口調で言った。それは溜息にも少し似ていた。


「なんてね、実はその事についてはもう諦めるつもりなんだ。妹が消えたのはずっと前だし。」哀愁さえ感じるその声は、後半になるにつれ、小さく縮こまった。


「じゃあ、今は何をしてるのよ。」

彼女はと言わんばかりに、足早に喋った。


「今は、歌を歌ってまわってる。昔から音楽が好きだったんだ。」


「何を歌うの?」


「アコギ1本で自分の歌を歌うのさ。」


「アコギ…本で見たことがある。確か暖かい音がするのよね。」興味津々なのがもろに伝わってくる。


「嬢ちゃん、聴いてみるかい?」


「ええ、ぜひとも聴いてみたいわ。」

その返事を聞くと男は隣で寝かせておいたアコースティックギターのケースから中身を取り出し弾いてみせた。


上品で邪魔になどなりそうもない綺麗な音色が辺りの空気を包み込む。


小鳥のさえずり、森のざわめき、風の音、鳥が飛び立つ音までもが、ひとつの伴奏のようにさえ感じる。


やがて、歌声もその中へと混じり出す。


「桜の花があなたを濡らして」

歌詞もまた、完成されたものをより良くする原料になっているようであった。それはまるで、紅茶にケーキを付けるように。



男が歌い終わると同時に、扉の向こうから拍手が聞こえた。


「すごいわ!本で読んで、想像してたのとまるで違うんですもの。」


「ありがとう。」

男は照れ笑いを隠しきれずにそう言った。

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