第17話 睡蓮沼 ①

 「実はね、私も……」


 魔王の娘は先程自分が目にしたものについて話し始めた。




 ー遡ること1時間、北の森ー


 「あっ、あれっ!?」


 魔王の娘の視界に “何か” が映った。


 それは赤い光に見えた。


 薄暗い森の中、いつからそこにあったのか。

 怪しげに光る赤色はやけに目立って見えた。

 魔王の娘は引き寄せられるように、その赤に近づいて行った。


 一歩一歩近づくにつれ、魔王の娘は周りの空気が冷たくなっていくのを感じた。


 「これは……」


 魔王の娘の目の前に赤い光がある。


 「これは……お花?」


 光っていたのは一輪の花であった。


 「お花が自分で光ってるなんて……」


 その花が咲いている辺りは薄暗く、光が差し込まれる隙間はなかった。

 花が独りでに赤い光を放っていたのだ。


 「よくわからないけど、よくない気がする」


 魔王の娘は真剣な眼差しでそう呟くと、左手でその花に触れた。


 ピシッ、パラパラ


 魔王の娘の左手が触れた瞬間、その花は硝子が割れるように砕け散り、跡形もなく消えていった。




 「っていうことがあったの〜。でもね、そのお花、感触がなかったんだ。確かにこの手で触れたはずなんだけど……」


 魔王の娘は話し終えると自分の左手を見つめ、ぎゅっと握って見せた。


 「花か……」


 魔法学者は、もしかすると先程観察していた花と何か関係があるかもしれないと思い、花が咲いていた方に目を向けた。


 「…………っ!?花が……どういうことだ!?」


 先程まで乾いた地面に咲いていた一輪の花は、今、突然現れた沼の上に咲いている。


 しかし、それは一輪ではなかった。


 「え?どうしたの?……お花って?」


 魔王の娘が不思議そうに小首を傾げている。


 「僕はさっき、蓮と睡蓮が混ざったような……なんかこう……とにかく、不思議な花を見つけたんだ。一輪だけね。それで、スケッチを始めたら突然、誰かの……女の子みたいな声が聞こえて……気が付いたら足元がぬかるんでいて……」


 魔法学者は身振り手振りで状況を説明している。


 「本当に突然の出来事だったんだ。さっきまで乾いた地面だったのに……。それにこんなたくさんの花、一体いつから……」


 沼の上には大量の花が浮かんでいた。


 「ちょっと、それどういうこと?」


 黙って魔法学者の話を聞いていた魔王の娘は、少し困ったような表情になった。


 「ここは、北の森では有名な “睡蓮沼” だよ?」

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