第16話 誰の声?
北の森の奥深く。
そのさらに奥深くに、一人の男が佇んでいた。
「うーん、この辺りは初めて来る場所だな。よし、ここで少し採集しておこう……おや?この花はもしかして……」
白衣を着ているその男は魔法学者だ。
魔法学者はしゃがみ込み、背中のリュックを下ろして中からスケッチブックを取り出した。
「これは……蓮?いやでも地面から直接生えているかのようだ……これではまるで睡蓮ではないか。しかしなぜ、こんな水気のない場所に一輪だけ……?」
魔法学者は蓮と睡蓮、どちらとも取れるような見た目の不思議な花を見つめ、スケッチを始めた。
『……おにいさん、そんなところでなにしてるの?』
「えっ?……う、うああああああ!?!!!」
ふいに誰かの声が聞こえた気がして顔を上げた瞬間、魔法学者は自分の足元がぬかるんでいることに気が付いた。
「な、なんなんだ?どうして急にこんな……うあああ!?!!」
驚いて尻もちを着いた魔法学者は、体が思うように動かないことに違和感を覚えた。
足元のぬかるみは沼のようになっており、動けば動くほど足を取られるのである。
このままでは下手すると沼に沈みかねない。
「うわっ!こ、これは不味いかもしれない……。いや、僕なら大丈夫なはず!こういうときは全身が沈まないように、こう体を横にして……」
一瞬驚きはしたが、魔法学者は至って冷静に対処しようと試みた。
「あっ!学者さん!?!!どうしたのー!?」
ちょうどそこへ、魔王の娘が走ってやって来た。
沼の真ん中に一人ではまっている魔法学者を見つけ、不審そうな顔をしたが、助けが必要なことを察して直ぐに白い杖を取り出した。
「 “ホワイトさん” 、学者さんを沼から出してあげて!」
杖は白い光を放った。
白い光はみるみる大きくなり魔法学者を包み込むと、魔法学者ごと持ち上げて魔王の娘の側まで運んできた。
「ありがとうホワイトさん!」
魔王の娘は杖に御礼を言うと、杖も返事をするように静かに白く光り、やがて光は消えていった。
「こ、これはこれは、魔法使いちゃん!?助けてくれてどうもありがとう!でも、どうしてここに?ホワイトさんって新しい杖だよね?ということは、君も魔法村に派遣されてきたの?」
目を白黒させながら質問攻めしてくる魔法学者に、魔王の娘は笑って頷いた。
「そうなの、私も魔法村に派遣されたんだよ!この子は武器屋さんに作って貰った杖で、ホワイトさん!白いから!!」
ちなみに、魔王の娘の初代の杖は茶色なので “ブラウンさん” だ。
「そうかそうか、魔法使いちゃんも来てくれたのかー!何だか嬉しいね。ホワイトさんもありがとう!」
白い杖は白く光った。
「どういたしまして」と言っているようだ。
「うーん、でも何か変なんだよね……」
「変?……そういえば、学者さんはどうしてあんな場所にいたの?」
魔法学者は先程の出来事を順を追って説明した。
「そうだったんだ……。実はね、私も……」
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