第18話 睡蓮沼 ②

 「睡蓮沼!北の森で一番有名な場所だって聞いてるよ?学者さんも知ってるよね?」


 魔王の娘は魔法学者の顔を覗き込んだ。


 「あ……ああ、そうだね。もちろん知ってるよ、睡蓮沼。……僕も今、落ち着いて眺めてみて気が付いたよ。この景気は確かに見覚えがある」


 魔法学者は睡蓮が大量に浮かんでいる沼を見つめていた。


 「ここは間違いなく睡蓮沼だ。でも、さっき僕がいた場所はここじゃなかったんだ」


 真面目に語る魔法学者の様子から、彼が嘘をついているようには見えない。

 魔王の娘は訳が分からなくなってきた。


 「う~ん、学者さんはここにいたけど、見ていた景色は違うってこと?」


 「うん、そうだよね、おかしいよねー。僕も自分がおかしいと思うよ……幻影でも見ていたのかな」


 目を擦りながら苦笑いする魔法学者を見て、魔王の娘ははっとしたように顔を上げた。


 「幻影……。そうだ!幻影を見せる術者ならいるかもしれない!」






 「おかしいな……お嬢ちゃん、一体どこまで行ったんだ?」


 「大丈夫かな、魔王の娘。心配だ……」


 ニートと武器屋は未だに魔王の娘を探していた。

 辺りは木が生い茂っており、見晴らしが悪い。


 「うぁっ!?」


 「どうした!?」


 ニートが手に持っていた松明が、どんどん短くなっていた。


 「なんか熱いなーって思ってたらもうこんなに短く…………あっつ!!」


 「ほら、貸せよ」


 武器屋はニートの手から松明を奪い取り、すぐ近くに見つけた水溜まりに投げ捨てた。


 「あ、ありがとう……」


 ニートはほっと胸を撫で下ろした。


 「おう、水溜まりがあるってことは水場が近いっていうことだ。確かこの辺りには……」


 「うん?……おおー!」


 突然二人の視界が開けた。

 そこには大きな沼があり、一面に睡蓮の花が浮かんでいる。


 「睡蓮沼だ」


 薄暗い森の中、大きな沼地一面に静かに浮かぶ睡蓮の花たち。

 ニートはその光景を見て、不気味だと感じた。


 「睡蓮沼っていうのか……何か怖いね」


 「そうか?俺はこういう場所が神秘的で好きなんだが…………お、あれは……」


 武器屋が何かに気付いたようだ。

 目線を追うと、沼の縁に人影が見える。


 「魔王の娘だ!」


 「おーーーい!お嬢ちゃん!!」


 武器屋の声に気が付いた魔王の娘は、振り返ると手を振って応えた。


 「見つかって良かった……」


 ニートは安堵の溜息をついた。

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