第3話 魔王の娘の派遣 ②

 「あのー?すいませんっ!賢者さん、ちょっといいかな?」


 いつの間に開いていた扉を閉めたのか、少女はスタスタと賢者たちの近くへやってきてそう言った。


 「……魔王の娘か。何の用だ?」


 魔王の娘と呼ばれた少女は、あからさまに機嫌を悪くした賢者の様子に気づいてか気づかずか、ニコニコしながら応えた。


 「も~、そんなに睨まないでよ!私が皆の代わりに魔法村に行ってあげるって話をしにきたの!……あ、情報屋さん!こんにちは~」


 突然挨拶された情報屋は「ふふっ、こんにちは」と笑顔で返し、続けて賢者に言った。


 「丁度いいじゃない、賢者君。魔法使いちゃんに行ってもらったら?魔法使いちゃん無敵だし、適任だと思うわ」


 少女は魔法使いであり、魔王の娘であった。

 魔王の娘は普通の魔法使いとは比べ物にならないほど強大な力を持つため、魔法村へ行っても臭気に毒される心配がないという。


 「だがしかし、此奴はあの魔王の娘だぞ。正直、信用しかねる。」


 「酷いよ!私はいつだって皆のために働いてるのに~!」


 首を縦に振らない賢者に、魔王の娘は桃色の頬を膨らませて怒った。


 「そうよ、賢者君。王立魔法教会は彼女を “魔法使い” として雇っているのよ。魔王の娘だってことは今は関係ないじゃない。魔法使いちゃんの力は教会が認めているし、魔王の娘って言ったって、魔法使いちゃん、魔王(パパ)と会ったことないんでしょ?血を引き継いでいるくらいで警戒しすぎよ。魔法使いちゃん、こんなに健気で可愛らしくて、いつもいつも教会に尽くしているじゃない。どうして信じてあげられないかな~?それとも何?魔法使いちゃんが今まで教会を裏切るような真似でもしたって言うの?」


 「あーもうわかった!」


 一気にまくし立てた情報屋に降参したのか、賢者は納得したようだった。


 「私も教会の判断を信用していないわけではない。しかし、魔王の娘……魔法使い一人を派遣するのは如何なものかと……」


 「あ~なるほど!賢者君、魔法使いちゃんが心配なのね!」


 「えっ!…ええ~っ!賢者さん、私のこと心配してくれるのっ?そうなの~?」


 どうやら賢者は魔王の娘を得体の知れないものがいるかもしれない土地に、一人で派遣させることに抵抗があったらしい。

 素直でないところが、彼の数少ない欠点の一つである。


 「……兎に角、魔法使い一人で行動するのは良くない。だが、教会の中で適任なのは君だけであることも確かだ。そこで、私から一つ提案しよう。魔法使い、君は魔法村についたら相方(パートナー)を探すといい。」


 「相方(パートナー)?」


 賢者の予想外の言葉を、魔王の娘はきょとんとした顔で繰り返した。


 「そうだ。魔法村で発生している臭気は、 “毒されると働く気力を失う” というものだと言ったな。それなら最初から働いていない奴は臭気に毒されても何も変わらないということになる。つまり……」


 賢者は渋い顔をして次の言葉を呟いた。

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