043-貸しいっこ
というわけで、イルスヴァを
だが、天界に向けて飛び立とうとする二人の前にユキコちゃんがやって来ると、意を決した顔で手を差し出した。
「"これ"の処分をお願いします」
その手には、先程の戦いでユキコちゃんが使っていた魔法の杖が握られている。
ロロウナ曰く『大気から魔力をかき集めるアンテナみたいなモノ』だそうで、それさえあれば魔力が尽きても魔法を連発出来るチートアイテムなんだそうだ。
これを使う事で、魔力を失ったユキコちゃんに
『んー。これをボクに返しちゃうと、魔法が使えなくなるよ?』
目を細めながら問いかけるロロウナに、ユキコちゃんは首を横に振る。
「私には、もう必要の無いものだから」
『……うん、その選択は正しいと思うよ。もう二度と同じ過ちを繰り返さないように、しっかりと友達の手を握って、ね』
ロロウナに頭を撫でられながら、ユキコちゃんは少し涙で目を濡らしながら何度も
『でもね、そもそも脅されていたと言っても、キミは罪を償っている真っ最中だったから。残念ながら無罪放免とはいかないんだ』
ロロウナの言葉にドキリと心臓が跳ねる。
皆が見守る中、言い渡された結論は……
『少なくとも、予定より早く贖罪を終えて元の世界に戻る事は無くなったかな。ひとまず、井上ユキコとして一生この世界で反省して過ごすが良いさ』
「っ!! ……ありがとう、ございます! ありがとうございます!!」
まったく思わせぶりな言い方しやがる天使ー……じゃないや。
どこぞの魔王の手下だな。
でも、ようやく今回の一件はこれで幕を閉じたわけだ。
「良かったな」
俺がそう言うと、隣に居たセラが嬉しそうな顔で笑った。
『うむ! それでは、これにて一件落着~~……』
「じゃなーーーーいっ!!!」
「あ痛ーっ!」
話が綺麗にまとまりそうになっていたところにリンナちゃんが突撃してきて、ユキコちゃんにチョップをかました。
「え、何? 何!?」
「なになに、じゃないわよっ!! 喫茶店でお仕事手伝ってたらいきなり呼び出されて、何故か小学校に連れて行かれた挙げ句いきなりアンタに襲われたのよ! とか何とか思ってたらいきなりドンパチ始まるし、訳が分からないまま今に至るわけよっ!! 何だか感動的に締めようとしてるけど、さすがに黙ってられないわっ!!!」
プンプンと頭から湯気を出しそうな勢いで怒るリンナちゃんを見て、一同困ってしまった。
確かに今回の一件に関しては、完全に巻き込まれただけの被害者だものね。
しかも殺されかかってたし……。
ユキコちゃんは申し訳なさそうに肩を落としながらリンナちゃんに近づくと、深々と頭を下げた。
「そうだね。私、リンナちゃんには、これから一生かけて償うから……」
「それは重すぎて逆に鬱陶しいから嫌だわ」
『「どうしろと」』
思わず俺とセラのツッコミがハモった。
だが、ユキコちゃんはどうすれば良いか察したらしく、今度は先程よりも浅めにペコリと頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「ふんっ、貸しいっこだからねっ!」
リンナちゃんはぶっきらぼうにプイッと顔を横に向けると、今度はこちらに向かってやってきた。
呆気にとられる俺達を見てニヤリと笑ったリンナちゃんは、再び自分とほぼ同じ背丈になったセラの肩をポンと叩いて口を開いた。
「次はアンタ達の事も教えなさい」
◇◇
「なるほどねぇ。そんな事があったんだなー」
勝手に我が家のリビングでくつろぎながら呟く神崎を
「んで、結局あのロロウナって
今回の一件で唯一解けてない疑問について問いかけたものの、カナは首を横に振った。
『困った事に全くの謎ですよ。アンジュ様に聞いても教えてくれないし、アウリア様に至っては、こちらから聞いてもないのに『さて問題です。ボクはアウリアとロロウナ、どちらでしょう?』とか言ってくる始末ですよ!』
『上の連中はカナのあしらい方を熟知しとるようじゃの』
苦笑するセラの言葉に、ぐったりと脱力した様子でカナは突っ伏してしまった。
どうやら天界にも「パワハラ」はあるらしく、何とも世知辛い世の中だなぁ。
と、そんなやり取りをしていると……
ピンポーンッ
『む、来たようじゃな』
セラが立ち上がって玄関に迎えに行くと、少しワイワイと駄弁った後にリビングに三人……リンナちゃんとユキコちゃんを連れて戻ってきた。
「げっ、兄貴も居たのね……」
「よう、今回は一苦労だったみたいだなー」
神崎の言葉に「兄も事情を知っている」と理解したリンナちゃんは、苦虫を噛み潰したような顔で神崎を睨みつつ溜め息を吐いた。
ユキコちゃんも、何とも気まずそうにカナをチラチラと見ているが、それに気づいたカナが少し笑いながらユキコちゃんの頭をぽんと撫でた。
『まあ、自らの罪を悔い改めた貴女を
「カナさん……」
『でも、あくまで執行猶予ですから。またやったら問答無用で、しょっ引きますからね?』
「ひぃっ!?」
せっかく良い話で終わるかと思っていたのに、いつも通り平常運転なカナに思わず笑ってしまった。
……もしかして、それを見据えた上で茶化したのか?
『~~♪』
俺はジト目で視線を向けたものの、それに気づいたカナはわざとらしくおどけやがった。
まったく、この天使は……。
『それにしても、前世で力に溺れた者が生まれ変わって友情によって改心とは……。私、こういう王道展開は嫌いじゃないっス』
「お前も敵から味方になる王道パターンだったじゃねーか」
俺のツッコミを受けてキサキは『にゃははは~♪』みたいに変な笑い方で誤魔化した。
『確かにキサキの言う事も一理あるのぅ。あの杖を返したという事は、ユキコはかつて自らの身命を賭してまで追い求めた魔導の力を手放したに他ならぬのじゃからな』
「へ?」
何故かセラの言葉に対し、当のユキコちゃん本人は素っ頓狂な声で応えた。
『いや、お主はイルスヴァに与えられた魔法の杖を放棄したではないか。自分には必要ないとかどうとか……。であらば、その弱き肉体では魔法を操れまい?』
「えっ!? あ~……あ~~、そ、そうだねー。うん……」
何故か気まずい顔で目をそらしたユキコちゃんの表情を見て何かに気づいたカナが、先程と同じ笑顔のまま、ポンと彼女の小さな肩を叩いた。
『全て吐きなさい。そうすれば命だけは助けてあげます』
「笑顔なのに言ってるセリフが怖い!!」
ニコニコ顔なのに妙に迫力のあるカナに凄まれたユキコちゃんは、観念した様子で口を開いた。
「イルスヴァの目を盗んで杖の回路構造を解析したので、別に杖が無くても頭の中でイメージすれば魔力を集められるんです……」
そしてユキコちゃんが人差し指を立てると、指先に小さな炎がポッと灯った。
『………』
「………」
杖を要らないと返した理由は、文字通り「杖なんて別に無くても問題無い」という意味だったわけで。
『なんだこれ』
キサキに皆の内心を代弁されてしまい、辺りは沈黙に包まれた。
結局、ユキコちゃんは『再び襲われた時の正当防衛、もしくは
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