034-戦い終わって
『それじゃコイツら全員、しょっぴいて来ますね』
カナはそう言うと、ダルカンドやグレーターデーモン達を
「一時はどうなるかと思ったけど、これで一安心かなぁ」
『まだ解決してないっスけどねー』
ホロウの治療が無事に終わり、元気にパタパタと空を飛ぶ姿を見て俺は安堵の表情を浮かべていたものの、キサキだけは先の戦闘と同じような険しい表情のまま、ある一点を睨み続けている。
キサキがジト目を向けた先には、力なく俯くグレイズの姿があった。
確かに、セラの命を狙う連中とは無関係だという事は判明したものの、結果的に俺の暗殺を企てていたのも事実なわけで、キサキの怒りは仕方ない。
モロに当事者のはずの俺自身が思ったよりも怒りを感じないのは、カナに続いて二回目だからであろうか。
『実際のところ、絡まれただけで直接コイツから危害を受けたわけではないんだけどな。……セラはどう思う?』
自分の名を呼ばれたセラは、呆れ顔でグレイズを
『我輩とカナが強行派に襲われている最中を見計らってリクを狙うとは、相変わらずやり口が汚いのぅ』
セラに自分の行動を全否定され、グレイズは『うぐっ』と呻き声を上げる。
『大きな勘違いをしているようじゃが、もしリクを亡き者にしたとしても、我輩がお主に惚れる事はありえぬし、その時は地の果てまで追い詰めてでもお主を殺すぞ』
『うっ……』
キサキが言っていた通りのセラの答えを受けて、グレイズはこちらへ振り返って泣きながらペコリと頭を下げた。
『僕が間違ってた……本当に申し訳ない』
俺はキサキと互いに顔を見合わせると、キサキはやれやれと仕方なくグレイズの肩を叩いた。
ただし、ポンと優しい感じではなく、ドスッと脅しを利かせる感じだったけれども。
『リクさんが許すって言うから今回だけ見逃してやりますけど、次は無いっスからね?』
『うぅ……ありがとう』
ついさっきまでキサキを貴様呼ばわりしてたり、偉そうにしていたはずのグレイズだったが、さすがに『時の最果て』を破壊する程の
そして、憑き物が落ちたかのように爽やかな顔でこちらへ振り向いたグレイズは、俺の頭の上に乗ったホロウを見てくすりと笑った。
『なるほど。君は勇者の名に相応しく、周りに仲間を引き寄せる力があるみたいだね。頑固者のホロウが懐くのがその証拠さ』
どちらかというと、今までグレイズがセラに対して無礼な態度を取っていたせいで、ホロウにも嫌われていただけな気がしなくもないのだけど、それを言うと話がややこしくなりそうなので、黙っておこう。
『残念だけど僕は略奪愛は好きじゃないから、セラの事は任せたよ』
しかも
だが、ここで否定しても、これまたややこしい事になりそうなので、俺は適当に
『しかし、セラは包容力のある大人が好きだと思っていたのだけど、まさか年下の子に惚れるなんて驚いたな。でも、こんなパッとしない平凡な人間のどこが良かったんだい?』
「おい、さらっとディスってんじゃねえ!!」
さすがにこればかりは黙っておくわけにはいかず、思いきり突っ込んでしまった。
だが、声を荒げた俺を見てセラは優しく微笑んで答える。
『誰かが落ち込んでいる時に手を差し伸べて、少し照れながら笑う時の表情が好きじゃな』
「なっ!?」
適当にあしらうかと思いきや、ド直球に好意を口にするセラに俺は仰天。
驚く俺を見て、ニヤリと笑うセラはさらに追撃を放つ。
『それに少し前にリクから面と向かって、我輩とずっと一緒に居たい~……的な事も言われた。ここまで熱烈に想いをぶつけられると、さすがに照れるのぅ』
『えええー! リク君すげーっスね!!』
「そこまで言ってねえ! 好きなだけ
『それはプロポーズと変わらないと思うなぁ僕は』
「この野郎!!」
『なっ、何をする無礼者っ!』
調子に乗るグレイズを締め上げる自分の顔の温度が少し高かったけど、これは怒っているのが原因だからな!
~~
『お疲れさま、カナちゃん。今回もお手柄だよー』
『お心遣い、至極光栄です』
私が深く頭を下げると、
『相変わらず堅いねぇ。別にタメ口でも呼び捨てでも、私は気にしないよ?』
『私は気にしますからっ!』
アンジュ様は笑いながら『ちぇーっ』と言うと、システムコンソールを開いて何やら色々と表示し始めた。
『とりあえず、
その言葉に私は嬉しさを隠しきれず、自分でも驚くくらい内心喜んでいた。
それに気づいたのか、私の顔を見てアンジュ様はクスリと笑う。
『カナちゃん少し変わったね』
『???』
『前まで君って自分の評価アップに関する事にしか興味無さそうだったのに、さっき私がリク君が転生せずに済むって事を伝えたら、それ以上に嬉しそうだったんだもの』
アンジュ様がそう言って嬉しそうに笑うものの、私は困惑した顔で首を傾げるばかり。
『うーん……自分ではあまり自覚が無いのですが』
『自覚ナシで嬉しいと思うトコが良いんだよ! これで肩の荷が下りた安堵の表情ですよ……とか言われたらどうしようかと思ったよ。あとは私への態度がもう少し良くなれば文句ナシなんだけどなぁ』
『えっ、何か無礼がありました!?』
慌てる私を見て『そういうとこやぞ!!』と不思議な事を言いながら私の肩をバシバシ叩いたアンジュ様は、再び真面目な顔つきに戻り立ち上がった。
『新たな魔王の刺客が動いたと情報が入りました。魔王討伐隊が行動開始するまで1ヶ月以上はかかるはずですから、ここからが正念場ですよ。改めて、勇者リクおよび関係者の護衛を宜しくお願いしますね』
『はいっ!』
だが、この時の私はまだ気づいて居なかった。
――次に戦う敵が、今までの連中とは比べものにならない程に『最強最悪のクソ野郎』だということを……。
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