022-銀色に染まる世界
ゴォォォォーーーー!!!
「………」
朝起きたら、凄まじい猛吹雪で窓の外は一面の銀世界……というか豪雪で何も見えない。
それを呆然と眺めていたカナはくるりと振り返ると、俺を見て微笑んだ。
『私、この家に来て良かったです』
「感動的なセリフをこんな訳分からんタイミングで消費すんな……」
それにしても、既に12月半ばで急に冷え込む日はあるとはいえ、朝起きて唐突にコレとは……。
ローカルニュースの天気予報でも、キャスターの人がビックリしていた様子だったし、恐らくもうそろそろ臨時休校の連絡の電話がかかってくるだろう。
ピンポーンッ!
「えっ、こんな日に来客!?」
玄関から聞こえてきた呼び鈴の音に驚きながら慌ててドアを開けると、何と訪問者はキサキだった。
『あの、おはようございます……。実はワアアアァァ!!?』
『ようやく正体を表しましたね、この女狐がっ……!!』
キサキは目を白黒させたまま玄関に引きずり込まれると、天使モードのカナに槍を突きつけられる。
『ひえええっ! な、何っ、なんなんスかーっ!?』
『
氷精すらも凍らせてしまいそうな絶対零度の眼差しに、キサキはブルブルと震えている。
『わーん、違うーっ! 雪がいっぱい降ってきて、楽しいな~嬉しいな~って思って外に出たら変なヤツが居たから、それを伝えにきただけっスからーーっ!!』
『変なヤツ?』
『アイスゴーレムにトゲトゲいっぱい付いてる感じのヤツが、勇者はどこだーっみたいな事を言いながら叫んでて~……って、どしたんスか?』
あまりにワンパターン過ぎる展開に、さすがのカナも飽き飽きした顔でハァと溜め息を吐いた。
『魔王の手下って学習能力無いんですかね……』
『敵味方どんどん強くなって、かつての強敵が復活したにも関わらず一発で倒されるよりマシじゃの』
そう言ってコタツに足を突っ込んで寝っ転がるセラの手には、願いを叶える星入りボールを集めるマンガ(完全版)が。
ちなみに、カナと同居するにあたって、神崎が倉庫代わり置いてたブツの大半は突っ返したのだけど、マンガと円盤だけは今もその多くがセラの部屋に保管されている。
まるで乾いたスポンジのようにオタク文化をガンガン吸収する姿を見ていると、娘の将来を心配するオヤジの気持ちが少し分かった気がする……。
『多分、この吹雪はトゲトゲのヤツを倒さないと止まないと思うんスけど。私は快適で良いんだけど、天使さん的には……放っておけないよね?』
『当たり前でしょう。それじゃ、さっさとそのトゲトゲのを狩りに行きましょう!』
腕をぐるぐる回すカナを見てセラは苦笑しつつ、読みかけのマンガに
『さて、すまぬがキサキもついて来てくれるかの?』
『もちろん! ウチとしても、修行中ずっと雪で学校がお休みでした~……って報告しようものなら、確実に怒られそうだから……』
うーん、留学生は大変だなぁ。
◇◇
キサキの案内で向かった先は、何と俺達の通う高校のグラウンドだった。
さすがに交通網が麻痺しているためか、教師用の駐車場には車が一台も無く、校門も閉まっているのだが……。
『ヴォオオオオーーー!!』
ファンタジー感溢れる、場違い感たっぷりな『アイスゴーレムにトゲトゲついたヤツ』が叫んでいる姿が見えた。
『大雪で人が居ないとはいえ、人に擬態すらしないなんて、非常識にも程がありますね。まあ、人間の姿で空を仰ぎながら雪雲を操ってたら、それはそれで大騒ぎになりそうですけど』
そして、呆れ口調でぼやくカナの隣ではセラが……顔を青くしながら震えていた。
『こ、この服装で豪雪は
「そりゃそうだよなぁ」
元の姿に戻ったセラの服装は、いつもの薄っぺらい黒装束一枚。
これもまた別の意味で場違い過ぎるわけで、今回のセラは残念ながら戦力として期待出来なさそうだ。
『あの、避難所を造ったんで良かったらどうぞっス』
いつの間にやらグラウンドの端っこに立派な『かまくら』が出来ていた。
セラはガチガチと歯を鳴らしながらかまくらに入ると、雪の上でしゃがんで身を丸める。
『ここが天国……か……』
「死神がそのセリフ言っちゃうのはどうなのだろう」
とりあえず俺も風除けのためにかまくらに入り、セラの横に座ると……抱きつかれた。
「えーっと……?」
『今だけは離れたくない』
「凄く魅力的なセリフだけど、両手を俺の襟元に突っ込んで体温奪うの止めてくれない?」
『我輩の
「止めろォ! 離せえええーーーーーっ!!」
かまくらで騒ぐ俺達に対し、カナとキサキがジト目で視線を向けてくる。
『なんスかあれ、イチャイチャ見せつけてるんスか?』
『やっぱりあの死神女は害悪ですね……。ところで貴女、戦闘スキルは何か使えます?』
『すみません、水と氷しか使えないんで、アレに使っても回復しちゃうっス……』
『やっぱり……そうですよね』
カナは溜め息を吐くと、両腕に力を込めながら何か小声で呟き始めた。
そして目の前に現れた光を掴んだ瞬間、それは鋭い刃を持つ巨大な武器へと変化する。
大剣……にしては妙な形だ。
「カナが持ってるアレ、何だろう?」
『恐らくソードメイスじゃの。あやつめ、槍だけでなく
俺の背中にくっついたままぼやくセラを見て少し満足げな顔をしたカナは、再びキサキに目を向けて口を開いた。
『さてと。さっさと片づけてくるから、貴女も隠れてなさい』
『は、はいっ!』
慌てて物陰に隠れるキサキを見届けたカナはソードメイスを構えた。
『さあ、かかってきなさい!』
『ヴォオオ……ウォッ!?』
凛と響く声に気づいたアイスゴーレム(中略)は吹雪の放出を中断し、ゆっくりとその黒い瞳をカナに向ける。
そして……
『ホーリーシールド!!』
カナの声が響くと同時に、顔の目の前で巨大な氷塊が砕け散った。
『いきなり不意打ちで顔狙いですか。あなたの御主人様と同じでホント、クソッタレですね』
綺麗な顔でクソとか言うの、ホントやめてほしいなぁ。
『ヴォオオオッ!』
……だが、その腕はカナに触れる事なく、ソードメイスの一撃で砕け散った。
『ヴォオ……!?』
何が起きたのか理解できないアイスゴーレムが呆然と立ち尽くしていると、ソードメイスをポイと投げ捨てたカナがその巨体を両手で掴んだ。
『私は寒いのが大嫌いなんです。だから……さっさとくたばれ、この木偶の坊が!!』
カナの必殺の一撃は、まさかの
関節をキメられたアイスゴーレムはそのまま蒸発し、猛吹雪がピタリと降り止んだ。
それからカナは、身体に付いた雪をぱっぱっと手で払い、こちらにトトトッと走り寄ってきた。
『リクさーん、私の身体を暖めてくださいな~』
「止めろっ! 氷を掴んだ手で俺に触んじゃ……ア゛ア゛ア゛ア゛ーー!!!」
カナの冷たい手に体温を奪われた俺の悲鳴が、静かな雪景色の街に響いた。
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