021-氷の国から来た少女
――透き通るような肌、さらりと長い髪、澄んだ青い瞳。
――まるで人形のような顔立ちは天使のよう。
黒板の前に立つ女の子の姿に、教室中の生徒がざわついている。
一方、
「あー、うちのクラスに留学生が来る事になったから。んじゃ、挨拶して」
しずちゃん先生の言葉に、クラスの皆が驚愕する。
突然過ぎる状況に、神崎が恐る恐る手を上げた。
「えーっと。カナちゃ……いや、天野さんが先月入ったばかりなのに、今度は留学生ですか……?」
確かに、転校生が中途半端な季節に来るだけでもレアなのに、その翌月に留学生を同じクラスに放り込むとか、この学校はどうなっているのだろう。
だが、神崎のツッコミに対してしずちゃん先生は疲れ顔で溜め息を吐いた。
「ハイハーイっ、転校生と留学生は全部ウチのクラスにちょーだーい♪ ……なんて言ってるわけじゃねーしなぁ。上から言われてんだから仕方ないだろう」
ごもっともだけど、それを本人の前で言っちゃうのはどうかと思うよ先生。
さて、そんなこんなで置いてけぼりにされてしまった転校生ちゃんは少しオロオロした様子だったけど、気を取り直して恐る恐る黒板に名前を書き始めた。
【
『氷帝キサキっス。皆さん、宜しくお願い致します!』
ぺこりと元気に頭を下げる姿に、クラス一同はほっと一安心。
悪い子では無さそうだ。
「うーん、テニスが強そうな名前だ」
「それは俺も思ったけど……つーか、神崎にしては珍しいな。いつものお前なら、ウヒョー! 色白美人キターっ! ……とか言いそうなのにさ」
俺の言葉に神崎は首を横に振る。
「あの子からはサドっ気が感じられないからな。あれじゃ、カナちゃんに調教されちまった俺の身体の乾きを癒す事は出来ないぜ」
「え゛っ……。カナ、いつの間にそんな……」
俺がドン引きしながら言うと、カナが慌てた様子で手をブンブンと振った。
『ひっ、人聞きの悪い事言わないでください! ちょっと、神崎さんっ!? 調子に乗ってるとぶっ殺しますよ!!』
転校初日は猫を被っていたカナだったものの、神崎のせいでとっくに素の性格がバレてしまっており、この毒舌も皆慣れたものである。
怒りながら神崎の首を絞めている姿からは、カナがこの世界を護る天使だなんて誰も想像できないだろう。
『ですが、ちょっと放っておくわけには行きませんね……』
ぼそりと呟いたカナの目線は、真っ直ぐに氷帝キサキへと向いていた。
◇◇
『ひ、ひぃぃぃー、助けてぇぇーー!』
ここは体育館裏。
転校初日にいきなり呼び出しをくらったキサキは、天使姿のカナに槍を突きつけられてブルブルと震えている。
「何か、すっげえ既視感」
神崎が複雑な顔でそれを眺めているのが何ともシュールだ。
そりゃ前回、お前は槍を突きつけられて震えてる側だったし。
『
笑っちゃいますねと言って顔は笑っているけど、目だけ笑ってないのがホント怖い。
セラと初対面の時だって開口一番が『ぶっ殺しますよ』だったし、敵と認識した相手への容赦の無さは、正直引くレベルだ。
『貴女の身柄は第四世界の神に引き渡しますので、懲罰はそっちで受けてくださいね』
『えええーーっ!? ちょっと待って! ウチ、まだ何も悪い事なんてしてないっスよっ!!』
『まだ……ということは、これから悪い事をしますって宣言ですね~』
『うわーん! 言葉の綾だよぉーー! そこの二人も、ぼーっとしてないで助けてぇーーっ!!』
わんわんと泣くキサキを見てて、何だか気の毒になってきた。
「とりあえず事情を説明してもらえるかな?」
『はっ、はいっ!』
『返答によっては命無いものと思……いたっ!』
いちいち脅しをかけるカナに一発デコピンを入れつつ、俺達はキサキの説明を聞くことにした。
『そちらの天使様が仰る通り、私は氷精っス』
「氷精?」
『はい。名前の通り、冷気を操る精霊の一種でして。ウチの国では一人前になる為に異世界へと修行に出て、他の文化に触れるしきたりなんです』
キサキが俯きながらカナをちらりと見る。
『まさか、いきなり天使様に襲われるとは思ってなくて……。出来れば秘密にしてほしい……っス』
「もしバレたら何か罰でもあるのか? まあ、俺らはもう聞いちゃったんだが」
神崎の問いかけに、キサキはコクリと頭を縦に振る。
『世界を騒がせるような大々的なバレ方だと最悪消滅もあるんスけど、今回のように絶対回避不能かつ、影響範囲が狭い場合は修行期間が少し延びるくらいかなぁと』
『なるほど。私がネットで拡散すれば一撃……と』
『ネットが何なのか分からないけど、凄くイヤな予感がするからやめてーっ!!』
キサキの反応に対しニヤリと笑うカナを見て、俺は溜め息を吐いた。
「まったくカナには困っちまうなぁ……って、どうした神崎?」
「新参者が俺のポジションを奪ってゆく……!」
「マジで何言ってんの……」
自身のアイデンティティの崩壊を恐れる友人の姿に、俺は呆れて溜め息も出なかった。
◇◇
「って事があった」
『氷精か。あやつらは暑さが苦手ゆえに、この時期を修行に選んだのじゃろうな』
「なるほどなー」
氷精って名前なくらいだし、冬にやってくる感じなんだな。
『まあリクさんが様子を見たいと言うので、解放してやりましたけどね。ちょっとでも怪しい動きをしたら即締め上げてやりますよ』
「お前、魔王の手下がどうとか関係なく、単にあいつが嫌いなだけじゃねーの……」
突っ込まれたカナは、例に漏れずこんな顔(・ω<)で茶化していて、思わず苦笑してしまう。
とまあ、俺達はそんないつも通りの団らんを過ごしていた。
――窓の外から三人を眺める姿に気づかぬままで。
『ふふふ……』
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