017-学校の怪談(後編)

『あれ? ここは……???』


「気がついて良かった! ゴメンね、うちの連れのせいで」


「大丈夫? 痛いところは無い?」


 目が覚めた女児は不思議そうな顔でしばらくぼんやりとしていたものの、しばらくして自分がどういう状況に置かれているのか察したらしく、慌てて首を横にブンブンと振った。


『わ、私の方こそ暗がりで驚かせてごめんなさい! でも、夜中に小さい子が肝試しに来るって聞いて、待ち伏せしてたんだけど、まさか逆にやられちゃったのはビックリだよ』


 女児の言葉にリンナとユキコは不安そうに顔を見合わせる。


「私達が忍び込もうとしてたの、他の子に聞かれちゃってたんだね」


「はぁ。明日、怒られたりしたらイヤだわ……」


『あっ、大丈夫! 先生達にはバラさないから安心してっ。たぶん、他の子達は気づいてないし』


「「よかったぁ~~」」


 安堵の溜め息を吐く二人を見て、女児は苦笑する。


『でもね、私が言うのも何だけど、子供だけで夜に出歩くのは危ないよ? あんまり遅くなりすぎないうちに、ちゃんと帰ろうね』


「そうねぇ……。結局、七不思議は全部ハズレだったし、他に見るものないものね」


 リンナはそう言うと、肩を落としながら再び先頭を歩きはじめた。


「ところで、あなた何て名前なの?」


『え? ああ、私は長谷川ハナコ。6年3組だよ』


「二つ上のおねーさんかぁ。道理で、ちょっと落ち着いてる感じがしてたんだね~」


 そんな当たり障り無い会話をしながら、仲良さげに話しながら裏門へ向かった。



◇◇



 それから三人は裏門から出て、途中まで一緒に帰り……


『やっぱり君だけは戻ってくるよねぇ』


『当然じゃろう』


 我輩が応えるとが応えると、ハナコは困り顔でガクリと肩を落とした。


『そもそも私をボディーブローで一撃KOしちゃってる時点で、普通じゃないもんね……。お嬢ちゃん、一体何者なの?』


『我が名は死神セラ。迷える魂を黄泉よみへと導く者じゃ』


『……そっか。だったらしょうがないよねぇ』


 くるりと振り返ったハナコの目には少し涙が見えた。


『私は夜に学校に忍び込もうとするヤンチャな子を驚かせたり、子供達の心の根っこにある恐怖心を煽るために居るんだ』


『どうしてそんな事を?』


『小さい子はどうしても加減が分からなかったりして、ケガしちゃう事があるでしょ? 私みたいな学校のオバケ達は、そういった子達にブレーキの大切さを覚えてもらう為に住み着いてるの。やっぱり、恐怖心って一番有効な保身術だからね』


 なるほど。

 悪霊のように危害を加える意思が感じられないと思ってはいたが、そういう理由だったか。


『まだ子供達を見守ってあげたかったなぁ……』


『うむ。これからも宜しく頼むぞ』


『???』


『???』


 夜の学校で二人の少女がキョトンと首を傾げた。



◇◇



『なーんだ、私を狩りに来たわけじゃないんだね~。ほっ』


『死神を何だと思っておる……。そもそもお主は迷える魂ではなく、普通に精霊ではないか』


『うー……。精霊扱いされると響き的に怖さが半減しちゃうから、もうちょっと怖い感じに扱ってほしいかな』


 よく分からないが、何やらこだわりがあるらしい。

 そんな会話をしていると……



『クックック、ようやく見つけましたヨ……』



 突然、運動場の方から男の声が聞こえた。


『えっ、誰っ……!?』


 突然の状況に困惑するハナコを見て、男は怪しい笑い声を漏らしながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 そして男の顔を見て、ハナコは青ざめながら我輩に抱きついてきた。


『私の名はスカログロウズ。以後お見知りおきを……と言っても、君達にはここで死んでもらうのだけどね』


 その姿は理科室で見た骨格標本そのもの。

 だが、金属で出来たプレートアーマーと、怪しく光るロングソードの存在が異質だった。

 男は二人の前まで来ると、不思議そうに首を傾げた。


『はて、勇者は男だったはず……。色白な子はどう見ても女の子だし、もしかすると黒い方は男……?』


 カナ曰く、リクと魂が同化してしまった我輩に対して、魔王の手下が勇者と間違えて襲ってくる危険性があるとの事だったが、まさかの男扱いと来たものだ。

 さすがに幼く貧相な体つきてとは言え、その無礼に不服を抱かぬ程に落ちぶれたつもりはない。

 我輩は苛立ちながらポケットからケータイを取り出すと、(1)と書かれたボタンを押した。

 しばらくして「ん~、どした~?」と間の抜けた声が聞こえてきたので、手短に要件を伝える。


『おいリク。どうせ近くに居るのじゃろう? 魔王の家来が現れたからさっさと来るがよい。小学校の運動場、裏門近くじゃ』


 スピーカーの向こうから「えええっ!?」と驚く声が聞こえたものの、我輩は向こうの反応を待たずに右下の赤いボタンを押してから、再びケータイをポケットに戻した。


『まあいいや。クックック、君ら二人ともぶっ殺して魔王様の手土産に……』


「そぉいっ!」


 我輩達を見てニヤけていた骸骨兵は、後ろから走ってやってきたリクのタックルで吹っ飛んで地面を転がった。


「大丈夫かっ!?」


『……驚く程に早いのぅ。まさか校内におったのか?』


「いや、さすがに外に居たけど……」


 とは言うものの、ばつが悪そうに頬を書く姿から察するに、よほど近くで待機していたと思われる。

 まったく、過保護過ぎるにも程がある。

 ……そこがこやつの良いところでもあるのだが。


『クックック……。よくもやってくれましたね。このスカログロウズ様が、君達の首を……』


「セラ、全権限許可だ!」


『うむ!』


『ちょ、ちょっと! まだ話し中……!!』


 何かブツブツとほざく骸骨兵が話し終わるより前に、我輩は元の姿に戻って大鎌を構えた。


『リクよ。巻き込まれぬよう、ハナコを連れて離れていてくれるかの?』


「オッケー。んじゃ、一緒に来てくれるかな」


『あっ、はいっ!』


 ハナコはリクの手を握ると、ちょっと顔を赤らめながら一緒に走って行った。

 ……うぅむ、あやつは人外もののけに好かれやすいのかもしれん。


『ひ、人が話途中だと言うのに……! まあ良い……クックック、それが貴様の真の姿か……? それでは首を……』


『そぉいっ!!』


 突然飛来してきたカナに突き飛ばされ、骸骨兵はズザーーッと運動場を滑走していった。


『………』


『魔王の手先よ、覚悟しなさい!』


 カナが槍を構えながら骸骨兵に向かって叫んだものの、相手は地面に突っ伏したままピクピクしている。

 どうにか気を取り直して起き上がるものの、カナの姿を見てその表情は完全に死んでいた。

 いや、見た目的に最初から死んでいるのだが。


『なんだ、スケルトンワーカーですか……。とりあえずどっちがやるか、じゃんけんで決めます?』


『別に我輩が倒してしまっても構わんのだろう?』


 天使と死神がじりじりと骸骨兵に近づいていく。


『どちらが先にトドメを刺せるか、勝負するかの?』


『私はそういうのダメなんですってば』


『助けて魔王様ァーーーーーーー!!!』


 哀れな骸骨兵の叫びが夜の小学校に響いた。

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