016-学校の怪談(前編)
「ねえ、怪談の噂……知ってる?」
突然リンナが不思議な事を言い出した。
『五年生や六年生の教室に繋がる……』
「それは階段。アンタの場合、ボケなのか素なのか判断が難しいから困るわ」
よく分からないが、どうやら別の意味らしい。
「えっとね、学校に幽霊とか化け物が出るって事だよ」
『ほぅ』
幽霊が出るとあっては放っておくわけにはいくまい。
それがもしも悪霊のように、生者に対して危害を加える恐れがあるのであれば、葬り去るのも死神の本務なのだ。
『その話、詳しく話してくれるか?』
「あら、アンタが乗り気なんて珍しいわね」
リンナがこほんっとわざとらしく咳をすると、その噂とやらを語り始めた。
「六年生の人達が話してるのを聞いたんだけど……」
『盗み聞きか』
「……ふっ。毎回突っ込むと思ったら大間違いだからね!」
ツッコミ魔のリンナが耐えるとは!
正直、これから聞くどんな話よりも、今この瞬間の方が驚きの度合いが大きいと思う。
「忘れ物をしちゃった先輩が、先生から鍵を借りて教室に向かったんだけど、六年生の教室って三階でしょ? 職員室から行く時は西階段から理科室の前を通った方が早いから~……って、通った時にどうやら見たらしいの。動き回る骨格標本を……!」
リンナの迫真の演技に、ユキコは本気で怖がりながら耳を塞いだ。
『ふむ。お主の
「何故かしら。褒められてるはずなのに、すごくムカつくわ……」
◇◇
『というわけで、週末にリンナとユキコを釣れて小学校に忍び込もうと思う』
「何が、というわけだよ……。んなもん、保護者として許可できるわけねーだろが」
我輩の要請に対し、案の定リクはバッサリと否定してきた。
無論、その対策も考えてある。
『死神として、もしもその幽霊が迷える魂であれば見過ごす事は出来ぬ。すまないが許してほしい』
「うーん……。それなら、俺もついて行く方が安全だと思うんだけど」
『お主、女児三人が
「うぐっ!」
我輩の一撃でリクが頭を抱える。
きっと今こやつの頭の中では、一人だけ浮いて気まずい思いをしている己の姿が浮かんでいるのだろう。
「……はぁ。ヤバいと思ったらすぐに連絡してこいよ?」
『うむ、承知した』
我輩の作戦勝ちである!
◇◇
「おっ、来たわね」
学校の裏門前には既にリンナとユキコの姿があった。
『二人とも、家の者への連絡は大丈夫かの?』
「兄貴にセラん家へ泊まるって言ってあるから大丈夫。ユキコは?」
「私の家はお父さんもお母さんもSEだし、帰りが朝くらいになっちゃうんだ。セラちゃんちに泊まるってメッセージ送っておいたよ~」
SEが何なのかは分からないが、二人とも
「とりあえず二人とも、開いてる教室があっても入ったら駄目だからね。警報鳴らしちゃうと警備員がすっ飛んでくるから」
「う、うんっ。気をつけるよっ」
リンナ曰く、この学校には結界のようなものが仕掛けられているらしく、下手に触れると感知されるようだ。
早苗から貰った『ケータイ』もだが、魔法に頼る事なく高度な文明を築き上げている
この状況、神々の目にどう映っているのだろうか……。
そんな事を考えながら、我輩達は最初の目的地に到着した。
「まず第一の怪談! 理科準備室の踊る骨格標本っ」
三人で理科準備室を覗くと、等身大のスケルトン像が飾ってあるのが見えた。
「……動いてないね」
「そうね」
人形に向けて意識を集中してみたが、魂が宿っている気配は全く感じられない。
魔力で操っている様子も無さそうなので、第一の怪談はスカであろう。
期待して来たのに、何とも拍子抜けである。
「次、行くわよっ!」
何故か不機嫌なリンナを先頭に我輩達は先に進む。
三人の姿をじっと見つめる視線に気づかぬまま――。
◇◇
「全っ滅っ!」
「確かに、そんな簡単に幽霊に会えたら怪談にならないもんね」
ガックリとうなだれるリンナとは対照的に、ユキコはどことなく安堵の表情を浮かべている。
我輩としても、未練をもって
『さて、帰る前に便所に行ってくるかの』
「アンタ、もう少しマイルドに言えないわけ……。私達三人だけなら良いけど、男子が居たら引かれるわよ」
『そうか。では改めて、小便してくる』
「マイルドな要素がまるでない!!」
騒ぐリンナを放置したままトイレに入った我輩は、ケータイの明かりを
そして個室のドアを開けたその時……
『見ぃ~たぁ~な……ァゲファッ!?』
いきなり現れた女児に驚いて、思わず
しかも、我輩にもたれ掛かって、ぐったりしたまま動かない始末。
『うーむ……』
仕方ない……。
我輩は女児をズルズルと引きずりながら手洗い場を出た。
「あら、早かったわね……って、それ誰よ?」
『何か知らんが、我輩を驚かせようとして飛び出して来たところを一発殴ったら、気絶してしまったようじゃの』
「わあああ! 何て事してんのよぉっ!?」
リンナは慌てた様子で女児の頬をぺちぺちと叩いた。
『う、う~ん……』
「よかった! 生きてた!!」
『さすがに子供の腕で一発殴ったくらいで死ぬ事はそうそう無いと思うが?』
「やった張本人なんだからアンタは反省しなさいよっ!!!」
リンナが騒ぐ横で、女児はゆっくりと目を開いた。
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