014-勝負よ!

 次の日のこと。


「改めて勝負よ!!」


 昼食の最中に、また髪の毛クルクルの女児が突撃してきた。


『……?』


「何よその顔」


『いや、名前が思い出せぬでな。神宮寺三郎だったかの?』


「神崎リンナよ!! "ん"しか音が合ってないじゃない!!!」


 我輩とリンナのやり取りがツボに入ったのか、男子生徒の一名が牛乳を吹き出してしまい、教室の後ろの方が大騒ぎになってしまった。

 うーむ、大変申し訳ない。


『昨日は勝負をふっかけておいて突然逃亡したと言うのに、まだそのネタで行くのか?』


「ネタって言うなぁ!!」


 食事中にも関わらず騒ぐリンナをちらりと見てから、我輩は溜め息をひとつ。


『モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ……って五郎も言っておったし、黙って食うが良いぞ』


「五郎って誰よっ!!?」


 リクから借りた漫画の言葉を拝借させてもらったが、我輩も全く同意見である。

 なお、今度は隣席の委員長ことユキコの笑いの琴線に触れてしまったらしく、危うく牛乳による二次災害の悲劇を起こしそうになっていたが、どうにか必死にこらえていた。

 重ね重ね申し訳ない。


「と、とにかく勝負しなさーいっ!!」


 そうは言うものの、食事中に何を競えと言うのか。

 いぶかしげに首を傾げていると、リンナはフフンと鼻で笑った。


「勝負内容はコレよ!」


 指を差した先には、ビンに入った未開封の牛乳4本。


「秋過ぎともなると寒くて牛乳を残す生徒が続出! しかも冬にならないとストーブを点けてもらえないから周りに並べて温める事も叶わず! この季節の牛乳は苦行なの!!」


 珍しくリンナに賛同する生徒も居るようで、数名がウンウンと頭を縦に振っていた。


「だから水筒に入った温かいお茶で済ませる生徒ばかりでね。毎日たくさんの牛乳が一口も飲まれないまま返されていくのよっ!」


『ふむ、由々しき事態じゃな。それでは我輩は残さぬよう、酪農家の方々にありがたく感謝しながら頂くとしよう』


「良い心掛けね!」


 リンナはそう言い残し、納得した様子で席に戻っていった。

 それから首を傾げたかと思いきや血相を変え、ドドドと足音をたてて戻ってきた。


「ちっがーう! 勝負するんでしょうがー!!」


『全く騒がしいのぅ……』


「とにかく転校生っ! 私と牛乳2本早飲み勝負よっ!!」


 リンナの言葉に周囲がざわつき始める。


「アイツ、五時間目が体育なのにマジかよ」


「腹くだしても知らねーぞ!」


 騒ぐクラスメイト達を見て、リンナはフフンと鼻で笑う。


「このナイスバディーを維持するために、毎朝と毎晩1本ずつ飲んでるから、楽勝よ!」


 うん?


『ナイスバディー???』


 我輩が彼女の胸元のヒラヒラした布を引っ張りながら呟くと、顔を真っ赤にしてきた。


「あっ、ああああっ、アンタだって似たようなもんじゃないの!」


『問題無い。既にお主よりも豊満であるし、大人の姿ともなれば世の男共を魅了する程度だと自負しておる』


「きーっ! どんだけビッグマウスなのよーー!!」


 我輩の言葉に、リンナは地団駄じだんだを踏んで怒った。

 確か牛乳を摂取するとイライラが解消されるといった事が書物に記述されていた気がするのだが、彼女を見る限り大した効果は無いように思える。


『さて、ご馳走様。それで、勝負はいつ行うかの? お主は食事がまだ終わっておらぬようだが……』


 一足先に給食を食べ終わった我輩は、リクから言われた通りに両手を合わせて大悪魔に祈りを捧げつつ、リンナに問いかけた。


「えっ、あっ、ちょっと待ってなさいよ!」


 そう言うと自分の席に戻り、凄い勢いで給食をかっ込んで戻ってきた。


「うぇっぷ……始めるわよ……」


『お、おい。お主、本当に大丈夫か? 無理をするでないぞ』


「問題無いわよっ!!」


 我輩とリンナの前に合計4本のビンが並び、全てのフタが取り払われた。


「よーいどんっ、でスタートだからね!」


『うむ、かかってくるが良い』


 我輩の挑発的な言葉にムッとしながらも、その表情は真剣そのもの。

 こういう空気は、正直嫌いではない。

 嫌いではないが……なぁ。


「よーい…………どんっ!」


 リンナが1本目の牛乳ビンを口に付け、一気飲み干そうと傾ける!

 ……が、我輩がその手を掴み、ビンがそれ以上傾かぬように力を込めてやった。


「なっ、何すんのよっ!?」


『これで飲めぬであろう』


 そもそも我輩は別に早く飲みたいわけでも、多量の牛乳を摂取したいわけでも無い。

 であらば、相手の飲む勢いを落としてやれば良いだけの話である。


「へぇ、実力行使ってわけね! やってやろうじゃないのっ!! 全力でかかってきなさい転校生っ!!!」


『うむ』


 結局のところ、この勝負はアームロックで相手の身動きを封じている間に2本飲んだ我輩の勝利で幕を閉じた。

 なお、リンナは5時間目の体育の授業中に青い顔をしながらトイレに行ったきり、放課後まで戻ってこなかった。



◇◇



『という事があった』


「あんだけガキと一緒に勉強したくねえとか文句言ってたくせに、めっちゃ楽しんでんじゃねーか……」

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