006-美少女転校生がやってきた!
「なんだリク、朝から元気ねーな。夜中にそんなにハッスルしたんか?」
「お前が元気すぎるだけだよ……」
朝から下品な事を言いやがる神崎を
確かに、今朝の人助けイベントで脱輪した自動車を後ろから押すのを手伝ったりして、肉体的に疲れてはいるものの、俺がグッタリしているのは別の理由によるものだ。
というのも、せっかくの「バイト無し連休」という最高の週末を堪能するはずが、暴走トラック突撃、死神セラと主従契約、天使カナの襲撃、早苗姉さんの一件などなど、意味不明なレベルでイベントが盛りだくさんだったわけで。
……正直な話、ちっともサッパリ疲れが取れていないのである。
「まあ、しずちゃん先生が来るまでゆっくり休んでな~」
「へいへい」
ちなみにしずちゃん先生とは、担任教師の源先生の事だ。
本名は何と源静香!
国民的アニメのメインヒロインと同じ名前ではあるものの、性格は正反対。
激しく男勝りな性格だし、どちらかというとジャイアンというあだ名の方が合っている気がする。
「……って、あれっ? しずちゃん先生もう来ちゃったよっ!?」
神崎が慌ててスマホの電源を切りながら雑誌を鞄に隠し、何事も無かったかのように装いながら、朝礼に備えて机上をスッキリ綺麗に片付ける。
なかなかの早技ではあるが、どうやら自分の部屋では効果が発動しないらしく、学校限定のスキルなのが残念である。
「……む、一緒に女子が居るっぽい。転校生か?」
「11月に転校は珍しいなー」
そんな当たり障り無い話をしていた俺達だったが……。
「おーい、お前らー。席につけー。……お、入っていいぞ」
担任教師に手招きされて入ってきた女生徒の姿に皆が息を飲み、教室は一瞬で静まりかえった。
その姿を言葉にするならば、深窓の令嬢。
長いストレートの金髪が光を受けて輝く様はまるで……
「天使だ……」
神崎はその容姿に見とれて呆然としていたが、俺は別の意味で呆然となっていた。
静かな教室にカッカッと響くチョークの音が止むと、音の主がくるりと振り返ってペコリと可愛らしく頭を下げた。
『天野カナと申します。皆様、今後とも宜しくお願い致します』
そう言って、カナは俺の方を見て天使の微笑みを浮かべた。
◇◇
「何が目的だ?」
放課後、俺は転校生の天野さん……もとい天使のカナに呼び出され、
『勇者様があの死神女と主従契約を結んだうえ、同棲していると知りまして。こちらとしても、悠長なことを言っていられなくなったわけですよ』
ついさっき教室で見た天使の笑顔と同一人物とは思えぬほどの冷たい目に、背筋がゾクリとする。
まさか、強硬手段で俺を
『勇者様に、今現在こちらで判っている情報をお伝え致します』
「へ?」
意外な言葉に俺は間の抜けた声を出してしまった。
カナは再び優しい表情に戻ると、ゆっくりと説明を始めた。
『こちらで調べた結果、勇者様と死神女の魂は"同一"であるという結論に達しました』
「同一?」
『はい、同一です。お二人で魂を共有し、人格と肉体だけが分離しているようなイレギュラーな状況ですね』
いまいち状況が理解しきれていないけれど、どうやらこれがカナにとって都合の悪い状況の原因らしい。
『もしも死神女が先に死んだ場合、勇者様に死神の能力が継承されます。よって、勇者様の魂は死神によって
「つまり、セラに死なれては困るって事で良いのか」
俺の問いかけに対し、コクリと頭を縦に振る。
それからしばらく黙った後、カナは覚悟を決めた表情で続きを語り始めた。
『そして万が一にでも勇者様が先にお亡くなりになると、先程とは逆に死神女に対して勇者様の能力が継承される事となります』
「セラに勇者の能力が継承って……それは大丈夫なのか?」
『死神女は転生せずとも自らの能力で異世界へ飛べます。つまり、彼女が勇者の能力を保有した状態で
カナの言葉を聞いて、再び冷や汗が流れる。
それはつまり……。
「俺が死ねば……セラが元の世界に帰れて、カナの目的も達成するって事か?」
だが、この質問に対してカナは頭を縦に振ろうとはしない。
それどころか、うつむいたままの彼女の足下には、ぽつりぽつりと涙の跡が増えていった。
『魔王を倒して頂きたいのは本望ですが、それは勇者様が自らの意思で転生した上での事。私のせいで命を失って死神に魂を取り込まれ、全てを失うなんて、そんな事……うぅ……』
今まで色々あったとはいえ、こう大泣きされてしまうと困ってしまう。
俺は居たたまれなくなり、思わず後ろを振り返ると……
「(・Д・)!」
ゴミ袋を持ったまま、凄い顔で突っ立っている神崎が居た。
俺は慌てて再び振り返ると、そこには両手で顔を覆ってシクシクと泣くカナの姿。
……さて、この状況を客観的に見てみよう。
体育館裏に男と女。
転校生が泣いている。
結論=俺、詰んでね?
この状況はヤバイ!!
俺は慌てて事情を説明しようとしたが、案の定、勘違いした神崎がワナワナと震えながら右手の拳に力を込めていた。
「
「何か、全部ニュアンスがおかしい!!」
神崎はゴミ捨て場にビニル袋を投げ捨てると、いきり立ちながら飛びかかってきた!
「うぉぉぉん、バカ野郎ーーっ! ……ってええええっ!?」
だが、俺に拳が届く前に、神崎は足払いされてその場にひっくり返った。
状況が飲み込めないまま自身の眼前に槍を突きつけられ、神崎は目を白黒させている。
『殺すぞ下民が』
「ひぃえぇぇーー!?」
いつの間にか天使の姿に戻って殺意剥き出しで臨戦態勢なカナの姿に、俺は大きな溜め息を吐いた。
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