005-主従関係
『なるほど。それで、セラちゃんは魔力が無くなって、元の世界に帰れなくなった、と?』
再び話は本題に戻り、今度はセラが縮んでしまった状況について考察している。
しかし、早苗姉さんも今回のようなケースは見たことが無いらしく、困惑している様子だ。
『天使の奴も不思議な事を言っておったが、魂が繋がっておるとかどうとか。我輩がリクの魂に触れた瞬間、いきなり光の帯が我輩の首を絞めてきて……』
セラの言葉に早苗姉さんはハッとすると、少し言いづらそうに俺の方を見て口を開いた。
『リっくん。今から、セラちゃんを見ながら、こう、えーっと、ワンちゃんに首輪とリードが繋がってるような姿をイメージしてみて?』
「『え゛っ』」
俺とセラの反応を見て、みるみるうちに早苗姉さんの顔が赤く染まっていく。
『私だって言うの恥ずかしいんだからっ。言ったとおりにやるのっ!』
「『はっ、はいーっ!』」
俺は言われた通り、セラに首輪を付けてリードに繋がれた姿を想像した。
褐色肌の幼い少女が首輪に繋がれて……オウフ! 犯罪の臭いがスゴイっ!!
「これはイカン! イカンですよ!!」
『早苗ぇ、お前の弟なんだか気持ち悪いぞ』
「うっせぇな!」
だが、俺がセラを怒鳴った瞬間、自分の右手とセラの首の間に光の帯のようなものが浮かび上がってきた。
「っ!?」
『やっぱり……。そのまま、リっくんはセラちゃんの元の姿を想像してみて。そうなる事を認めてあげる、みたいに心の中で念じるような感じで』
「う、うん」
早苗姉さんの言うとおり、俺は初めて逢った時の『大人のセラ』を頭に強く思い浮かべた。
認めてあげるっていうのはよく分からないけど、そうなる事を願う感じだろうか。
「元の姿を……認める……」
俺が小声でそう呟いた瞬間、セラの首に巻き付いた光の帯が眩く輝いた!
『おおっ……!』
再び部屋が元の明るさに戻ると、俺と早苗姉さんの目の前には黒装束姿の褐色美女……つまり、元の姿に戻ったセラが居た。
『セラちゃん、死神の鎌は出せる?』
『この姿で"ちゃん付け"は少々恥ずかしいのじゃがな。まあ良い……ふんっ!』
セラが右手を振り上げると、空中に物々しいデザインの大鎌が現れた。
『おおぉ、魔力が完全に戻っておる……いや、それどころか前よりも増しておるかもしれん』
続いてセラは何かを呟いて左手を前に出すと、目の前に黒い球体が現れてフワフワと宙を舞った。
『上位魔法も問題無しじゃな……おっと、そいつに触れぬように気をつけよ。指だけでなく腕ごと持って行かれるぞ』
「こっわ! そんな危ないモノを出すなよ……」
『ならば、次は
目の前の景色がグニャリと歪み……
『ストーーップ!!』
ずびしっ!
『ぎゃあっ!?』
セラが空中に両手を広げようとしたところで、早苗姉さんがその脳天にチョップした。
『な、何をするかっ!?』
『とりあえず状況が分かったので、リっくんはリラックスリラックス。肩の力を抜いて深呼吸~。そのままセラちゃんがちっこくなった姿を想像して~』
「すー、はー、ちっちゃいちっちゃいー」
ポンっ!
『おろっ!?』
セラが再びチビっ子の姿に戻り、早苗姉さんは困り顔で溜め息を吐いた。
◇◇
「主従関係……?」
『ええ、リっくんとセラちゃんは、強い術式と魔力で繋がれている状態なの』
そう言われてもピンと来なかったのだが、セラの口から別の言い回しが出て、初めてその意味をハッキリと理解した。
『……我輩は"リクの奴隷"なのじゃな』
つまり俺の右手からセラの首に伸びていた光の帯は、彼女を拘束するための魔力の鎖であり、俺とセラの生命線でもあるらしい。
セラが元の姿に戻ったのも、その姿を「俺が認めた」ことで死神としての権限を一時的に与えたのが理由だろうとのこと。
そして最後に早苗姉さんがセラの脳天にチョップしたのも、あのまま転移門とやらでセラが元の世界に飛んで行ってしまうと、門を閉じた時に鎖が切れて死ぬのが理由らしい。
『生かすも殺すもリク次第、か。このような失態、
少し寂しげに苦笑するセラの姿が、何だかとても心苦しい。
「俺のせいでホントごめんな」
率直に今の気持ちを口にすると、セラは驚いていた。
『どうしてリクが謝るのじゃ?』
『いや、俺の奴隷になったからセラは帰れなくなったわけだし……』
俺が答えると、セラはウーン……と唸りながら腕を組んだ。
『リクよ。死にそうになったお主に交換条件を持ちかけたのは我輩、これは分かるな?』
「ん? ああ、そうだな」
『それを失敗したのも我輩じゃ』
「うん」
セラが真面目な顔で俺の目をじっと見る。
『リクが謝罪する要素が全く無いではないか? むしろ、お主の日常の妨げとなってしまう我輩にこそ責があるじゃろう』
申し訳なさそうに
「あそこでお前が助けてくれなかったら、間違いなく俺は死んでたんだ。セラには感謝こそすれど、責める理由なんて無いよ」
『感謝……か』
「ああ」
少し伝え方がぶっきらぼう過ぎた気もするけど、俺の言いたい事は通じたようだ。
『……ふふ。それなら、おあいこじゃな』
セラが少し嬉しそうに笑い、何だか俺も嬉しい気分になる。
一方で早苗姉さんは……何故かキラキラと目を輝かせていた。
『セラちゃんっ!』
『お、おおうっ、なんじゃ!?』
『とっても良い子なので、うちの弟を末永く宜しくお願いしますっ!!』
『う、うむ? 分かった……』
勢いに圧しきられたセラは、困惑した顔のままコクコクと頷く。
『リっくん!』
「な、何……?」
『お姉ちゃんは、リク×セラのカップリングを応援しています!』
「意味わかんねえ!!」
目を輝かせながら狂喜乱舞する姉に、俺とセラはひたすら困惑するのであった。
◇◇
『というわけで、君達二人で暮らしなさい』
「『は?』」
いきなり過ぎる早苗姉さんの提案に、二人は先程とは別の意味で困惑する。
『リっくんの一人暮らしを認めたとはいえ、やっぱりお姉ちゃんとしては離れて暮らすのはちょっと心配でね。その点、セラちゃんが一緒なら心配なさそうだし、何かの間違いが起こったら、お姉ちゃん嬉しい♪』
『"間違い"という言葉の使い方がおかしい気がするのじゃが』
「気にしたら負けだ……」
早苗姉さんは一度言い出したら絶対に引かない頑固者だし、ここで反論しても言い負かせるなんて出来そうもない。
「まあ間違いは起こらないと思うけど、頑張ってみるよ」
俺の言葉に早苗姉さんは嬉しそうにニコニコと笑う。
『それじゃ、お姉ちゃんは色々と手続きを進めるから、二人とも頑張ってね~』
ひらひらと手を振って見送られて俺達が玄関から出ようとしたその時、早苗姉さんが急に真剣な顔で俺の手を握った。
『……私は
「……うん」
『それでも、りっくんは私の弟で居てくれますか?』
この家を出ると伝えた時よりもずっと不安そうに俺の顔を見上げる姉の姿に、俺は胸が詰まり、なかなか言葉が出ない。
正直なところ、まだ少し混乱はしているけれど……答えはひとつだ。
「早苗姉さんは早苗姉さんだし、誰が何と言おうとも俺は早苗姉さんの弟だよ。人間がどうとか、そんな事は関係ない」
俺がそう伝えると、早苗姉さんは
『ありがと……うぅ、ありがとうっ! 本当に……本当に、ううぅ……うわーーーんっ!』
昔みたいに力一杯抱きしめられたけど、不思議と恥ずかしくなかった。
『お主、なかなか男ではないか。見直したぞ』
「うっせ」
ただ、セラのせいでやっぱり恥ずかしい気がして、俺は再び照れながらそっぽを向いた。
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