004-やさしいお姉さんは、好きですか?
セラの案内で協力者の居るという目的地に向かっているわけだが……。
『むぅ、やたら通行人がジロジロと我輩の姿を見てくるのは何故じゃ』
「その服装だもんなぁ」
ありふれた住宅街の往来で、まるでハロウィンのオバケみたいな衣装姿の外国人少女が
しかも元がとんでもない美人さんだったので、ちっちゃくてもその美貌は変わらず、服装で一度見、顔を二度見~……といった具合だ。
というか、リアルで二度見する奴なんて初めて見た。
『さて、着いたぞ』
セラが指差した先にあったのは、とても古風な日本家屋だった。
道路に面して瓦屋根の乗った木製の門があり、少し高めな場所に構えられた表札には屋敷の住人達の名前が記されている。
【伊藤 誠一・沙良・早苗・陸】
その中の一文字だけ少し黒色が濃く、後から付け加えられた事を示唆していた。
「本当に、ここなのか?」
『屋敷から魔力の流れを感じるからの。間違いなかろう』
俺はその言葉に内心動揺しながら呼び鈴のボタンを押した。
しばらくして玄関の半透明ガラスの向こうに人影が見えた後、ガラガラと古びた音を立てながらドアが開かれる。
その向こうから姿を見せた人物は、コチラに気づくと手を振りながら満面の笑みでやってきた。
『わーい、リッくん~~。よく来てくれたね~~♪』
「うん、ただいま。
そう言って、俺はぺこりと頭を下げる。
『???』
不思議そうにキョロキョロと俺たちを見比べるセラに、早苗姉さんは可愛らしく、くすりと笑った。
◇◇
『なんじゃ、お主らは知り合いだったのか』
応接間でモグモグする姿が完全にお子様なセラにツッコミを入れたい気持ちを抑えつつ隣に座ると、正面の早苗姉さんに会釈した。
「知り合いと言うか、小さい頃はココで暮らしてたんだよ」
『うんうん、リっくんは私の可愛い弟なの~』
そう言うと、早苗姉さんが身を乗り出して頭を撫でてきた。
うぅ、この歳でそれをされるのはすごく恥ずかしい。
『姉弟……?』
「俺達に血縁関係は無いよ」
『む、そうであったか。道理で全く似ておらぬわけじゃな』
早苗姉さんは、俺が小学校二年生だった時の担任の先生の娘さんなのだけど、俺は養子として引き取られた立場なので、一応法的には姉弟という事になっている。
ちなみに当時六年生だった早苗姉さんは、俺が弟になった事が相当嬉しかったらしく、登校中にずっと手を繋いで歩こうとしたり、人目を気にせずいきなり抱きついてきたりして、やたら気恥ずかしかった覚えがある。
『それにしても、久しぶりに顔を出してくれたかと思ったら、まさか奥さんを連れてくるなんて、お姉ちゃんビックリ~♪』
「いや、いやいやいやっ! デカい連れ子ならまだしも、コレが嫁とか犯罪でしょうがっ!!」
『年齢的に問題は無いと思うのだが』
「ややこしくなるからお前は黙ってろ!!!」
『いだだだだっ!? こめかみをグリグリするのは止めんかっ!!』
『あらあら~』
取っ組み合いを始めた俺達を見て、早苗姉さんは嬉しそうに紅茶を一口すすると、静かにカップを置いた。
『さて、その子と一緒に来たという事は、リっくんは日常の枠から少し飛び出しちゃったみたいですね』
苦笑する早苗姉さんの表情からは、少し残念そうでありながらも、どことなく安心したかのような安堵の色が窺えた。
その言葉の真意はつまり、早苗姉さんもセラと同じ"人とは違う存在"という事だ。
『お姉ちゃんに詳しく聞かせてくれるかな?』
優しく問いかけられた俺は、これまでの
◇◇
『なるほど、よく分かりました』
これまでの経緯を一通り聞いた早苗姉さんは、何故か俺の頭を撫でてから今度はセラに視線を向けて優しく微笑んだ。
『結果はどうであれ、貴女はリっくんの命の恩人ですし、改めて姉として感謝致します。本当にありがとうございました』
御礼を言われる事に不慣れなのか、深々と頭を下げる早苗姉さんの姿を見たセラはオロオロしながら俺に目線を向けてきた。
『ところで早苗とやら。お主は、リクが勇者の力を持っておる事を知った上で暮らしておったのか?』
少し真面目な顔で問いかけたセラに対し、早苗姉さんは首を横に振ると、再び俺に顔を向けた。
『リっくんが勇者どころか、小さい頃に天使に会っていたというのも初耳です。いっつも色んな人から感謝されたり褒められたりしてて、スゴい子だな~、いつか皆を助ける偉い人になるのかなぁ~って、思ってはいましたけど、まさか嫌々やらされてたなんて……。もうっ! なんでお姉ちゃんに相談してくれないかなっ!』
俺が相談しなかった事が不服らしく、早苗姉さんは頬を膨らしてプンプンと怒りだした。
「い、いや、ただでさえ身寄りのない俺を育ててもらってたわけだし、さすがに迷惑かなーって……」
『むぅーーー!』
俺の言葉に、早苗姉さんはますます不満そうに頬を膨らしてしまった。
『リっくんは私の弟なんだから、もっとわがまま言っていいの! そんな気遣いは、めっ!!』
「で、でも……」
『めっ!!』
「はい……」
シュンとなった俺を見てセラが嬉しそうにニヤニヤ笑っていて、何だか小憎たらしい。
『強大な力を秘めた勇者も、姉には頭が上がらんのじゃのー』
「うっせぇ」
何だか気恥ずかしくなってしまい、俺は顔を赤くしたままそっぽを向いた。
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