003-天使襲来!
『
カナと名乗る天使が微笑を浮かべて俺に話しかけるや否や、セラが驚いてベッドから飛び上がった。
『な、なななななあああっ!?』
『ほう、こんな虫ケラが勇者様に近づくとは良い度胸ですね。ぶっ殺しますよ?』
恐ろしく物騒な事を笑顔のまま言い放つカナを見て、セラはベッドから転がり落ちると、床に尻餅を付いたまま慌てて手をブンブンと振った。
『貴女は一体何をしているのですか?』
『ま、まままま、魔法が出ぬっ!? 何でっ!! 何でじゃああああーーっ!?』
涙目で騒ぐセラと俺を交互に見たカナは、露骨に嫌そうな顔で『チッ』と舌打ちした。
『なるほど、最悪の事態になっちゃいましたね……』
何がなるほどなのかは分からないが、この天使にとって望ましくない事態が起きているらしい。
『申し訳ありませんが、何があったのか詳しくお教え頂けますか?』
「えっ、俺もよく覚えてないんだけどさ……」
◇◇
「んで、気づいたらベッドでセラと寝てた」
『死ねばいいのに』
『ヒィっ!』
カナは鬼の形相でセラを睨みながら、恐ろしい言葉を口にした。
『単刀直入に言いますと……この虫ケラが身の程知らずにも、勇者様の魂に手を出したのが原因ですね』
「身の程知らず???」
『勇者様は、この世界に生まれさえしなければ、魔王を倒す程の強さを誇る英雄になるはずだったのです。ですので、その魂の一部を切り取るとはつまり、それ程の力を解放した上で再び組み直す能力が要求されるわけです。今回のケースだと、そこの虫ケラなんて存在すら遺さず消滅してもおかしくなかったのですよ』
『し、しかし、こちらの世界では単なる人間であろうっ!? それがどうして……』
『はぁ、ホント貴女はポンコツですね』
蔑みの目でヤレヤレと両手を広げるカナの態度に、ついにセラの堪忍袋の緒が切れた。
『おのれ神の下僕ごときが調子に乗りおって、うがあああーーっ! ……ぎゃんっ』
だが、逆上して殴りかかったものの、デコピン1発でKOされてしまった。
『そもそも、そちらの世界のお偉いさんを倒せる程に強大な力を持つ勇者様の魂を、貴女みたいな虫ケラが受け皿になって解放したのです。多分、寿命を拝借しようと手を出した時点で、貴方の魂は消し飛んでるはずですよ』
『わ、我輩、死んでしまったのか……?』
『はぁ……死んでたらココに居ないでしょう? 理由は分かりませんが、勇者様と強く結びついてしまっているようですし、貴女が勇者様の魂に
だが、カナの説明を聞いても、まだ腑に落ちない。
「あのさ、それで何で"最悪の事態"なんだ?」
俺の質問に、カナは苦虫を噛み潰したような顔になると、それから目を伏せて答えた。
『死神と繋がった状態で貴方に死なれてしまうと、魂の
カナは困惑した様子で目を伏せる。
……って、あれ?
『こちらでも解決方法を探しますので、それまでは、お体に気をつけてお過ごし頂ければと……』
あれれ???
「それって、俺には全くマイナス要素が無くね?」
『えっ?』
『確かに。健康第一、長生きが一番じゃの』
ごもっともだけど、死神が言うのはどうかと思う。
『えっ、えっ……え?』
カナは悲しそうな顔で俺を見つめているけど、こればかりはさすがにどうしようも無いわけで。
「えーっと、お引き取り願えます?」
『がーーーん……わああああああああっ!! おぼえてろーーーっ!!!』
カナは窓をバーンッと開け、泣きながら飛んで出て行ってしまった。
『よし! 我輩達の勝利じゃ!!』
「うーん……。これでしばらく黙っててくれると良いんだけどなぁ」
――と、軽く考えていた俺だったが、その後、カナとは思わぬ形で再会する事になろうとは、この時の俺は知る由も無かった。
◇◇
『それにしても、ただ者ではないとは思っておったが、まさか勇者とはのぅ……』
「異世界に生まれてたらの話だけどな」
俺の言葉にセラが首を傾げる。
『先程からお主や天使が不思議な会話をしておったが、どういう意味じゃ?』
「どうやら俺は本来、異世界で生まれるはずだったのに、間違えてこっちで生まれたんだとさ。死んでくれたら異世界に転生させるから、勇者になって世界を救ってくれ~……ってな事を言われてた」
かなり端折って伝えたけれど、概ね間違ってはない。
だが、セラは目を見開いて驚くと、不満そうに天使の逃げていった方角を睨んだ。
『なんと横暴な! 何故そんな事が許されるのじゃ……』
セラはわなわなと拳を震わせたかと思ったら、俺の手をガシッと握った。
「お、おいっ?」
『安心するがよい! 我輩がお主を護ってやる!!』
「いや、お前死神だろっ!? それに、さっきも天使にデコピン一発でやられてたじゃねーか!!」
『くっ、それはそうじゃが……。だとしても、死神が人を護ってはならぬと言う法は無い!』
セラが不思議なコトを言う。
「死神って通行人をぶった斬ったり、世界の浄化に失敗した主人公をあの世に連れ去ったりするのが仕事じゃないの?」
『それでは通り魔ではないか!! ……二番目の例えに至っては全く意味すら分からんが、死神とは死に瀕した者が正しく
なるほど、俺の前に突然現れて魂の取引を持ちかけてきたのは、それが目的だったのか。
『さて、これからどうしたものかの』
「何が?」
セラが空中に手をかざすと、ポンっと軽快な音を立てながら、ミニマムで可愛らしい鎌が出てきた。
『これが今の我輩ができる精一杯じゃな』
「つまり死神の力が全然無いってコト?」
俺の問いかけにセラはコクりと肯いた。
確かに天使が現れた時も手をブンブン振ってたけど、アレは天使を撃退するための魔法か何かを使おうとして失敗した状況だったようだ。
『気は進まぬが、同胞を訪ねてみるとするかのぅ……はぁ』
「えっ、この周りに他にも死神が居るのかっ!?」
『厳密に言うと死神では無いのじゃがな。我輩達は自由に異世界を渡り歩く事が許されているが故、行った先で問題に遭遇する事も決して少なくは無い。そういった場合に協力を仰ぐ事が出来るよう、各地にそういった役目を持つ者が居る』
うーん、まるで大使館みたいだ。
『最寄りはここから子供の足でも行ける場所にあったな。手間をかけてすまぬが、一緒に来てくれるか?』
俺はセラの問いかけに
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