第3話 高見沢高校入学編 3
ボク、湯島悠記には唯一の武器であり磨き上げている特技がある。
自分ではその力をヒロイン力と誇っている。
「(ホント、この力を手に入れる為にどれだけ人間を捨てたか分からん。1日の最高睡眠時間なんて3時間くらい。対して学生は8時間から9時間は寝ろっていうのだから、おかしいよね!!!! 嫌になっちゃうよね!! だから身長が170いかないんだよね!! だから同級生に上から見下ろされているだよね!!!!!! 」
・・・・・・笑えるよね。
・・・・・・情けないよね。
・・・・・・・・・・・・・・・。
でも、これくらいしなきゃいけないんだよ。あの2人に追いつくためには。
地道に手さぐりで、独りよがりなのかもしれないけどでも、天才と同じステージにいくためには他の生活なんて捨てなければならなかった。
「頭が沸騰しそう」と思った日が一体何日あったか。
・・・・・・・おっと!? 昔のトラウマが脳裏に!!・・・って違うよ。
結局、何が言いたいのかというとヒロイン力についてだ。
この力は簡単に言えば・・・・・・・メインヒロインを再現する力とも言え、客観的にだけど、アニメの二次元ヒロインに見えるようになれるのだ。
まぁ、最初この力が自分に備わっていると聞かされた時は、でっかい石の裏にミミズとゲジゲジとゾウリムシが密集している光景を見た感覚に陥り、ゾッとしたものだけど・・・・・・・今は、高校最初のクラスでの自己紹介で自分の名前の紹介を忘れてしまうくらいまで頻繁に使うようになったのである。
そして、この容姿も。
クリッとした目、プルプルな唇、健康的な肉付きの腰(・・・・若干、くびれてる? )、なのにお尻は出ていて、なにより女性に間違えられるほどの黒髪ロング。
内と外。
心と体。
全てにおいてヒロイン力に通じているからこその、なせる技。
だが、こと高校生活全般においてあの自己紹介はやらなかったほうが良かったかもしれない。
「・・・・ねえ、いいから答えてよお琴ちゃん! 」
「だから、ゆ・し・ま・ゆ・う・き!! もう一週間経ったんだよ! いい加減覚えてよ!! 」
「自己紹介でドジッ娘ちゃんを発動しちゃったのはどこの誰かな―――あ、ここにいた!! ハハハハハ!! 」
ハハハハwwwwwww・・・・・じゃないよ!!!!
その件についてからかうのはもうやめて!!
「うぅ、でも先生も言ってたよね!! いじめはよくないって!!!! 」
「そうだったの? にしては次の日の弁解がやけに必死だったわね~ 」
「だからあれは・・・・・
誤解なんです!!!!!!!!!! 」
「こと姉だよね!! 自己紹介の時の! 」
・・・・・・え?
ボクの度重なる弁解に重ねたのは誰??
それに今、「こと姉」って言った?
恐る恐る、声がした方向に顔を向けた。
「琴に妹がいるのは次の巻で判明するはずなのに・・・・・グぐぐ」と、自分と同等のオタクがいる事実が嫌だった。悔しかった。
だから、そのオタクがどのような人物なのかすごく興味を持った。
でも、その興味はすぐに消失したんだけど。
・・・・理由??
・・・・・・・・・・・リア充だから
・・・・以上。
自分と違う世界に生きている人種が、しかもクラス1のイケメンがオタクであることが世紀末だと思ってしまった。
嫌悪感というより消失感を味わった。
「・・・・ねえねえ! もう一回こと姉やってよ!! 」
・・・・・・・自分のアイデンティティが奪われた。
・・・・・・・オタクで美少年顔というのが、せめてもの天から頂いたプレゼントだと思っていたのに。
「頼むよ! 一生のお願い! 俺の数ある戦利品から何かあげてもいいからさ!! 」
・・・・・・・・・・・知るか、ボケ!! あんなの「お前ら」の前ではもうやらねえよ!!!!!
「・・・・・あっ! ・・・えとえと気持ち悪いと思わないのですか? 」
自分の心に正直になれないボクのヘタレ根性が嫌でもわかってしまう台詞。
やはり社会的に言うのであれば、彼らみたいな人種が求められているに違いない。
「何言ってんの。超最高だったよ!! マジ琴ねえだよ!! 君以外に琴ねえのコスプレしているレイヤーいるけど・・・・・それとは別次元だよ!!!! 」
・・・・・・・・この一言、反応。
後に、彼が最優の友兼、「彼氏」になることをこの時のボクはまだ知らない。
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