第2話 高見沢高校入学編 2
「首が、痛いな・・・」
朝起きてから体がだる重い。
自分が夜中まで台本を熱心に読んでいたからという理由がある以上、自業自得であるから誰かのせいにはできない。
・・だが、今回は違う。
朝起きたら、水玉のパンツが目の前に。
それが女の子の、ましてや優奈のものだとわかるまでそれほど時間は掛からなかったが・・・・・・「重い!!!」と、この一言を言ってしまったせいで心身共に疲れている。
本当なら今日から始まる高校生活を良い気分で迎えたかった。
真新しいYシャツに学園指定のネクタイ、ズボン、ブレザーを着て、「ちょっと大きいかな? いやいや3年もすればぶかぶかになるか!」などと言ってみて自転車のペダルを踏む。そして桜が咲く通学路を通って校門を通る。教室に入る前に、先生からクラス表を渡されてドキドキする。
これが王道だろう。
リアルでもアニメでも同じ感じになる。
・・・・・・だというのにこの世界は少し違った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・・・・現在時刻は10時45分。
校長のとてもありがたいお言葉と生徒会長からのお優しい歓迎を受け取り、ベテランの副校長が早々に入学式を終わらせた後、新入生は教室で自己紹介をすることになった。
何も変わらない自己紹介。小学校、中学校でもそうであった通り、あ行から順番にしていく。少し違っていたのは、わざわざ黒板にするくらい。
(高校生になったんだから漢字くらいイイ気がする・・・・っと!?)
そうこうしてるうちに自分の番が回ってきた。
これまで通り名前、趣味を言うだけ言うだけ・・・と手のひらに「人」を書く。
教卓までの道のりはひどく長く感じられた。
それでもこの場をうまく切り抜けるかどうかで自分の印象が変わると思って、少し深呼吸。教室の新鮮な空気を吸い込み、黒板に自分の名前を書き込む。
・・・・湯島 悠記・・・・・・と。
我ながらきれいに書けた。
文字の大きさもはらう所も完璧。
(まぁ、みんなに顔を向けるのが恥ずかしくて、自己紹介やるのを長引かせるためにだから当然だけど・・・・・)
問題はみんなに向かって言うということ。
あわよくば、ここで担任の先生が来て帰りのホームルームが始まってほしいくらい緊張している。
・・・・だが、そんなことただの現実逃避。
気付けばありえない期待を抱くより、どれだけスムーズに自己紹介をするかに脳が切り替わっていた。
だからであろう。
この時、湯島悠記の頭の中に猪瀬
その人物とは今年の春アニメで必ず覇権を握るであろう、「明日の恋は記憶の光」の黒髪お姉さん系メインヒロイン。容姿端麗、成績優秀で完璧超人なのだが、この間の2話で彼女の部屋がいわゆるオタク部屋だということが発覚。これがまた、ギャップ萌えで絶賛人気急上昇中なのだ。
・・・・・あれをやるしかない!!!!
もはや、普通の自己紹介をするなんて考えなかった。
ただ、もっと違う方法もあったのではないかと考えるべきかもしれなかった。
「明日の恋は記憶の光 第3話 安らぎの陽射し
――――――――自己紹介シーン」
これを再現する他ない。
(因みにこれは、2話の最後の次回予告にちらっと出ただけで。ホントこのアニメが好きな人には申し訳ないが・・・・やらせてもらう!!)
赤色の縁取りのメガネをサラッと取ってみせる。
そしてストレートの黒髪をなびかせる。
(クラス中の雰囲気、みんなの視線OK!!)
・・・・・・・・・・いざ、「死地にゆかん《演技開始!!!!!!》」
「わたし、猪瀬 琴! 言っておくけど勉強以外の会話は一切受け付けないのでそのつもりで」
・・・・みんな目を丸くしている。
「後は・・そうね。もしわたしのことが嫌いだったら目を合わせないで」
・・・・・・みんな、きょとんとしている。
「以上で終わります」
・・・・・・・・みんなスマホを取り出し、撮影。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・???????
「パシャリ」という効果音は自分の席に戻ろうとした時に鳴った。
またそれは1回ではなく2回、3回とドンドン増えていく。
正直、この時の自分の脳みその中は空白状態だった。再現に力を入れたのが、前回のコミケ用のサンプルボイスを作った以来だというのもあり、上手にできているのか不安もあった。
しかし、その不安でさえ目の前に広がる光景の前では、霞むのだ。
「ああ、入学そうそう黒歴史をつくってしまった・・・・・・ぐすん」
・・そう呟きながら自分の席に戻る。
「ほんとに男の子なの?」
「リアル男の娘きたたたたたたたたたたたたたたったたたたたたたたたたたたたたt」
「(マジ、オレの嫁)結婚してください!!!!!!!!」
席に着く道のりでも、席に着いてからも写真を撮らされ、あわよくばポーズまでお願いされるという「アカデミー女優」バリの扱いを受けた。
「おい、コラ!!!! なにやってる!! 授業中は携帯禁止だぞ」
そんな時、ようやく担任の先生が来た。
後から分かったことだが、この学校は授業中の携帯使用は、反省文と進路指導の対象になるらしい。
(まあ、自業自得ってやつかな)
ここでようやく不安から解放された。
しかし、自分があんなことをやらなければこんな大事にはならなかったので、結局は人のことは言えない立場。
「・・・ねえ」
「何かな。今疲れてるから」
そんな自分に追い打ちをかけるように、後ろの席の女の子に言われた。
「ことねえ? それとも悠記君? ・・・・どっちで呼べばいいかな?」
「そんなの決まって・・・・・キマッテ・・・・あ!!!!!!!!!!」
・・・・・・・この日を境にボクこと湯島悠記は、この茶髪ショートの田川
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