素敵なお宝は家探しの最中に

 さて、後始末も済んだことだし、カチュキの本格的な復讐の物語が始まるのだ!


 ……と、言いたい所なんだが、早速問題が発生した。


「情報がえ」


「まあ、そりゃそうだろうな」


 カチュキが納得するのもごもっともで、絵美を殺した犯人に関する手掛かりが今のところ全く無いのだ。


「てか、ウラウラは絵美の残留思念を見たんだろ? 何か分かったんじゃないのか?」


「いや、死に際の映像はあったよ。カチュキが犯人じゃないのは確定的になったけど、あまりにも像がぼやけてて誰だか分からなかった。他に情報を集める必要があるね」


「マジかよ……」


 『神と眷属の間』であるリビングの中央でソファに座りながら深くため息をつくあたし達……。


 と、ここで部屋をざっと眺めていたカチュキの目が、あるものを見た瞬間止まった。その方向を向くと、あったのは今や隅に追いやられた義龍聯合の代紋だった。


「そういやここ、義龍聯合っていうヤクザの本部なんだよな。ヤクザってのは、相手を脅すためならあらゆる情報を握るって聞くぞ。もしかしたら、ここって情報の宝庫なんじゃねえのか? この家探ったら何かいいもんが見つかるかもしれねえぞ」


「なるほど~。そういえば、この館ってあまりにも広すぎて、まだ全貌を掴めてないんだよね。やるじゃん、カチュキ。まずは足元で手に入る情報から始めよう!」


 というわけで、我が親愛なる眷属の実に聡明な提案により家探やさがしを始めるわけなんだが、まず初めの手を付けたのはあたしの部屋だった。


「おいおい、ウラウラの部屋なんか入っていいのかよ。マジで女の子の部屋みてえじゃねえか」


「あんた何考えてんのお? やらしいこと考えたって無駄だよ。作業に集中しな」


「ああ、まあ、分かってるよ」


 この部屋は、かつてこの館の主であり義龍聯合の長でもある義藤龍壱の私室だった。今はあたしの手によって我がアイデンティティ溢れる可愛くもダークな内装へとグレードアップさせたんだが、以前はただっぴろいだけの地味な部屋だったんだよね。


「ウラウラ、作業と関係ないかもしれんが、ベッドの上でテディベアみたいに置いてあるアレ、何なんだ?」


 カチュキが指差したのは、ベッドの上で座ってるぬいぐるみだ。寸胴な胴体に丸太のような短い手足。手先には爪を模した三角形の布が縫い付けられ、頭部は触手のような髭を蓄えたタコのような形状。蝙蝠のような翼が背中から生え、全体的な色彩は赤とか黒とか青っぽい色が使われている。


「『ク・リトル・リトル』のぬいぐるみだよ。特注品のでっかいやつで、あたしが生まれた頃から使ってるお気に入りさ。知らないのお?」


「いや、知らねえよ。初めて知ったわそんなぬいぐるみ。てか、相当年季が入ってるぬいぐるみなんだな。所々色褪せてるし、顔の触手? とか汚れてるのとか途切れてるのとかあるし、羽の付け根とか包帯巻いてあるし……」


 近付いて色々いうカチュキ。てか、よく見てんなー。


「ま、モノは長く使う主義なんでね。逆に味があっていいだろお?」


 あたしは部屋にあった本棚を見てみる。実質、照明とか備品とかを置く棚の役割の方が主すぎて書物の類はろくに無いんだけどね。てか、ここにも『義龍聯合史』が置いてあるとか、義藤龍壱はどんだけ自分の組織が大好きなんだよ。


「……ん?」


 義龍聯合史の背表紙の豪華さに気を取られちゃってて気づかなかったんだけど、似たようなタイトルの本が隅っこにあるのを見つけた。大きさや厚さこそ義龍聯合史と同じだけど、背表紙がなんかちょっと加工された厚紙程度という質素な作り。で、肝心のタイトルはというと、


 ——『義龍会史』


「ぎ、義龍ぎりゅうかい史?」


 思わず声が出ちゃった。義龍聯合と同じく『義龍』が使われてるけど、義龍聯合とは違うのか?


 試しに『初年度』版を開いてみる。


 ……ん? なんだこの組織、橿洲カシュシュの地の外で創設されてる。しかも『下水流しもずるかいの四次団体として結成』された? 『シモズルカイ』? またなんか新しい組織が出てきたんだけど?


 しかも何があたしを混迷させたって、この義龍会、創設者の名前が『義藤龍壱』——義龍聯合の創設者と一緒ってこと。なんだこれ? 義藤龍壱は組織をふたつ作ったってこと? それとも、どこかのタイミングで組織の名前を変えた? なんでそんなことしたんだ? あぁ~、こんな悩むんだったら、あの時あの一番偉そうな奴を殺すんじゃなかったよお。


 とりあえず、この義龍会史も読んでみたら何か分かるはずだ。……でもおかしいな。嫌な予感ばかりして、読み進める気が全く起こらねえ。


「ウラウラ、なんか面白いもん見つけたかー?」


「え、あ、いや、特に無かったかなあ。強いて言うなら、なぜか『義龍会史』というのが本棚にあったくらいかなー!?」


 急にカチュキから声を掛けられ、思わず『義龍会史』を本棚に戻して誤魔化しちゃうあたし。バカかあたしは? こんな重要そうな情報、どうして隠そうとしてるんだ?


「『義龍会』? 『義龍聯合』じゃなくてか? そいつは面白いもん見つけたな。……なあウラウラ、これの付け方分かるか?」


 カチュキが指差したのは、部屋の隅に置かれてた奇怪な置物。机の上に薄い板状の何かが立っていて、その両脇と足元の左右にも箱形の大きな何かが置かれている。邪魔だから退かしたかったんだけど、これら全てがひとつのセットになってた上に、なんか壊したら勿体ない気がしたんで部屋の隅に退かしたんだよね。


「『パソコン』? それなら余裕だよ。任せな」


 快く応じたあたし。決して、カチュキに『義龍会史』へ興味を持たれないようにしてるわけじゃないぞ。


 パソコンのディスプレイは、ログインするためのパスワードを要求していた。この最初の関門が分からないと、こいつをまともに操作することすら出来ないってわけだ。ま、あたしの手に掛かれば、そんなもんは無いも当然だけど。ふっはっは。


「すげえ。ウラウラ、パソコンまで分かるのか!?」


「絵美のパパの記憶で見たんだ。あいつ、高スペックなパソコン作る趣味があったみたいで、一通りの操作はそこから学べたよ。医者だけじゃなく、他にも色んな趣味や道楽を持ってたとは、教養に溢れたエリートは違いますな! はっはっはっはっは!」


「マジかよ。絵美からはそんな話すら聞かなかったぜ」


「それに、こんなもんは所詮、電子エネルギーの挙動の集合体よ。あたしの魔力で掌握出来ないもんじゃない。こんなの苦戦するうちに入らねえ。これが、邪神の実力ってわけえ」


 映像が次から次へと切り替わる。こいつの操作をするにはキーボードとマウスが必要らしいんだが、あたしには魔力だけで操作出来るからそんなもん要らないね。端から見れば、なんかの動画みたいに勝手に映像が切り替わってるようにしか見えんけど。


 ただ、中に入ってる情報が膨大すぎる。これ全部精査すんのは時間かかるなあ。とりあえず、真っ先に気になった資料は、これ。とりあえず、ディスプレイいっぱいにいくつか広げてみる。


「なんだこりゃ? 館の図面か?」


「うん。多分そう。これが駐車場で、これが組織員が集まる大広場かな? で、これが事務室、これが大浴場、あとこれが神と眷属の間かな?」


 なんて部屋の確認をしながら館の図面を見るあたしとカチュキ。うーむ、なんというか、広い割には既に足を運んだフロアばっかだなあ。あ、屋内プールとか見たことないぞ。でも、それより一番気になるのは……。


「地下室!? この館、地下室まであるのお!?」


「しかも、なんか思ったより広くねえか? 入口も隠されてる感じするし。これ、どこよりも行く価値があるぜ?」


 満場一致。というわけで、この地図を頼りに地下室とやらへ行ってみる。


 場所は食堂沿いの通りの先。廊下の行き止まりと思った壁こそが、地下室へと通じる隠し扉だった。開け方は分かってる。壁周りにある電子エネルギーを探り、その流れを魔力でちょちょいと弄れば、同じく隠れたデバイスも触れずに扉を空けちゃうことができるってわけ。


 で、扉に先にあった階段から地下へと降りたあたし達だけど、入ってすぐに分かった。地上と雰囲気が違いすぎる。


 暗い。いや、照明のおかげで物理的には明るいんだけど、なんというか取り巻く空気が陰惨で重ったるい。それは決して、地上の豪華な感じとは打って変わって照明が埃被った白熱灯や投光器ばかりだったり、ただ掘って石材で固めただけみたいな壁の質感のせいじゃない。


 ときおり鼻を刺激する独特の臭気……。なるほど、だいたい分かった。


「ああ、ここは場所だ」


「なんだそりゃ? 安全な場所ってことか?」


「どうだろ。ここは不思議な場所でさ、んだけど、入ったらみんな場所でもあるんだ。なんでだと思う?」


 カチュキは突っ込まなかった。多分、問いかけた時のあたしが、かなり悪い笑顔してたからだと思う。つまりは、そういうとこってわけ。


「カチュキ、とにかく色々探索してみよう。色々、面白いもんが見つかるかもしれないよ」


「お、おう。分かった」


「なんだよ、復讐者になるって言ってたくせに、こんな地下室の雰囲気だけでビビってんのお?」


「……悪かったな!」


 かくして、地下室を探るあたし達。


 結論から言うと、あたしの見立て通り、がわんさか出てきた。なんか手術に使う椅子とか、治療用のように見えてちっとも治療用に見えない何かとか、何に使うのか分からない水タンクとか、やけに多い鎖や縄の類とか。


「いや、マジでここで何があったんだよ。ここの奴らは何してたんだよ」


「さあ? でも、こういうのって色んなアイデアが捗るよねえ。町が大切にしてる要人とかをここに連れて……みたいなのとか面白そう。ふっはっはっはっは」


「……!?」


 ここで、別の部屋に入ったカチュキが一言も喋らなくなった。


「なんだよカチュキ、急に黙っちゃって。これっぽっちの発言くらいで引くんじゃねえよ。復讐者たるもの手段は選んじゃダメなんだぞ。——そうそう、ここに連れてきた誰かを徹底的にのとかも、カチュキはやらなきゃダメなん……ええ!?」


 カチュキの後に続いたあたしも、中にあったもんを見て驚いてしまった。


 物騒なもんが放置された、このフロアでは何度も見掛けた部屋。他にあるもんといえば、奥の方にいかにも臭くて汚そうなトイレがあるくらい。そんな空間のど真ん中に――いた。


「おい、大丈夫か!?」


 カチュキとあたし達はすぐさま近付く。部屋が薄暗くて気付かなかったんだが、裸で椅子に縛り付けられてるようだ。


 性別は、恐らくカチュキと同じ。痩せたシルエットにしちゃ顔がデカく見えるのは、恐らく酷く腫れるくらい殴られまくったからだろう。腹と背中を見るに、熱した鉄棒でも押し付けられたような跡とかも見える。


 衰弱が酷い。恐らく、あたしがやってくる直前まで何かしらの拷問を受けてたんだろう。で、カチュキが復讐者として目覚めたのが昨日だったから、こいつは丸一日放置された後、あたし達に発見されたって感じだろう。


 虚ろな眼差しがあたし達を見た。何かを乞うような視線——あたし、こういうのは大好きだ。そんな想いに答えるべく、あたしは宙に浮かぶ闇結晶の刃を複数生成し、そいつの喉笛に突き付けた。


「あんたがどこのどいつだが知らねえが、担当が急に変わったんだ。とりあえず、すんげえ苦しんでたとこ悪いんだけど、今すぐ終わりにしてやるから。耐えても報われねえ現実を恨んで死んじまいな! ふはっはっはっはっは」


「待て、ウラウラ!」


 全ての刃を突き刺して楽にしてやろうとしたら、カチュキが止めに来やがった。


「なにカチュキ? 眷属のくせに、あたしの邪魔しようっての?」


「ちげえよ。殺す前に、まずはこいつの素性を調べるべきだ。こいつが、義龍聯合に捕まった『哀れな善人』だとは限らねえ。もう、迂闊に殺して失敗するなんてのは御免だろ?」


 カチュキの提案に、あたしの口端がにやりと吊り上がった。刃が消えていく。


「成る程~。流石は聡明な眷属カチュキ。となれば、早速見てみちゃうか!」


 というわけで、蒼く光らせた手でこいつの頭を引っ掴む。


 うーむ、衰弱が酷すぎるんか、今までのどいつよりも記憶が曖昧だ。けど、何をやってるのかは大体わかる。こいつ、誰かを盗聴したり盗撮してる。で、それでスキャンダラスな情報を暴いて、週刊誌とかに売ってる。


 続いて映ったのは、自分が情報を暴いた政治家や芸能人が記事に映ったことにより、人生が破滅してる光景。でも、こいつは、なんとも思ってねえ。罪悪感どころか達成感すらない。自分は仕事をやったまで。金を貰えれば何をやってもいい。なんて模範的な冷血漢だ。


 他にも色んな仕事を手掛けてきたみてえだが、今回ばかりは相手が悪かったようだ。義龍聯合を探ろうとして、義龍聯合に捕まった。その結果がこの様だ。


「大体わかった。カチュキ、こいつは大手柄だ。こいつは、哀れな善人なんかじゃねえ。自分のためなら誰かが不幸になったって構わねえっていう典型的な悪い奴だ。つまり、解放してやった方があたしにも都合がいい」


 ★★★


「こんな可愛らしいお嬢ちゃんに助けられるなんて、あっしも運がいいですねえ」


 助けられたそいつ、治療して適当な食料あげたら、まともに口聞けるレベルまで瞬く間に回復しやがった。なんて生命力だ。でも、『可愛らしい子』って言われるのは素直に嬉しい。えっへっへっへ。


 こいつの名は、出宮でみや家郎いえろう。家郎じゃ呼びにくいのでイエローって呼ぶことにしてるけど、フリーライターとかいうもんに勤めてて、金になるネタの為に盗聴とか盗撮とか色んなことをして誰かの心臓をペンで刺し貫いてきたロクでもない奴だ。


 地下にいた時は裸だったけど、今は館で拝借した服を着てる。適当に選んだ革ジャンベースのコーディネートなんだけど、顔が地味すぎるせいか威圧的な雰囲気が全然ない。艶の無い黒髪といい、口周りをだらしなく覆ってる髭といい、なんというか雰囲気が全体的に暗くてねちっこいんだよね。ま、それが悪いもんだとは思わんけど。はっはっはっは。


「しかし、なんで義龍聯合に捕まってたんだ?」


「簡単な話ですよ。義龍聯合のこと色々調べてたからです」


「でも、なんで義龍聯合はあんたを拷問した? 調べられるのが嫌で口封じのために殺すってのなら分かるかもしれんが、拷問する意味はないんじゃねえのか?」


「それについては、義龍聯合に聞かないと分かりませんよ。見せしめの為とかじゃないですか?」


「……アミャ・トイチロー。義龍聯合は、義龍聯合を調べるようあんたに依頼した奴が誰か知りたくて、あんたを拷問した。だろ?」


 カチュキと家郎のやり取りの最中にあたしが横から声を掛けると、イエローから息を飲む音が聞こえてきた。


「お嬢ちゃん、どうして分かったのです?」


「あんたを助けた時、あんたの記憶を見させてもらった。衰弱が酷すぎて断片的にしか分かんなかったけど、あんたの素性は大体分かってる」


「あっしの記憶を見た、ですと? お嬢ちゃん、何者なんです?」


「あんたならすぐに調べられるんじゃねえの? ふっはっはっは」


 ちょっと話題が逸れそうになったので、ここでカチュキが軌道修正。


「てか、アミャ・トイチロー? 誰だ、そいつ」


網谷あみや頭一朗とういちろう。現橿洲市市長である網谷あみや頼盟よりちかの長男にして、レインボー・ジャパン東京本社の最高業務執行責任者を担っている大物ですよ。お嬢ちゃんの言う通り、あっしはその方から『義龍聯合について調べてほしい』と依頼され、この橿洲市にやって参りました」


「へえ、すげえ人から依頼されてたんだな。でも、そんな奴がなんで義龍聯合なんて知りたがってたんだ?」


「さあ? そこまでは明かしてもらえませんでした。あ、嘘だとお思いでしたら、お嬢ちゃん、あっしの記憶を見て確かめてください」


「嘘じゃないの分かってるよ。あんたが依頼を受けた瞬間の記憶は、かなりバッチリ映ってたからね」


 イエローがあたしに確認を求めてくるなんて。あたしの力を分かってるようなのは嬉しいけど、ちょっと癪に障るね。


「で、家郎さんよ。あんたは義龍聯合について今の所、どこまで分かってるんだ?」


「それはあたしもあんたの口から聞きたいね。記憶を見た時、衰弱が酷すぎてそこはよく分からなかったんだ」


 あたしとカチュキの二人の視線を浴びて、イエローは卓に肘を付けて指を組みながら、淡々と答えてくれた。


「助けてくれた例ですから、教えて差し上げましょう。義龍聯合は、元々は『義龍会』という『下水流しもずるかい』の三次団体でした。その義龍会が、ある日突然クーデターを起こし、下水流會を壊滅させた結果生まれたのが義龍聯合です」


「は!?」


 思わず声が出ちゃった。イエローの言ってることってつまり……。


「てことは、俺が生まれる前からずっと橿洲市にいたヤクザ組織ってのは下水流會のことだったんだ。で、それを義龍会が奪って義龍聯合になったってことは……現在、橿洲市にあるヤクザ組織は義龍聯合だけ


 待ん! カチュキ、それ以上言うのやめて!


「それを、ウラウラが壊滅させてしまった。つまり、今この橿洲市にってことになるな」


 いやああああああああ! 言われちゃったあああああああ!


「なんと。彼女のおかげで義龍聯合は崩壊してしまったと。これは社会にとって嬉しい一大事ですね。……しかし、これどうやって報告しましょうかねえ」


「待って! ちょっと待って! 確かにあたしは義龍聯合を壊滅させちゃったかもしれないけど、悪い奴らを滅ぼしたわけじゃないから!」


 突然、あたしが横から叫ぶもんだから、カチュキもイエローもきょとん顔。でも今はそんなの関係ねえ。話を続ける。


「組織ってのには、必ず『残党』ってのがある。いくら下水流會や義龍聯合という組織が壊れたとはいえ、その構成員ってのはこの広い町のどこかに必ずいる。それに、義龍聯合によって押さえつけられてた別の組織だって新たに動き出すかもしれねえ。あたしがやったのは悪の撲滅みたいな『いいこと』なんかじゃ断じてない。新たな混乱の火種をばらまいた。それだけなんだ!」


 すると、イエローは腕を組んで納得顔。


「なるほど。それは一理あるかも知れませんね。逆に、もっと調べる必要がありそうだ」


「たしか、義龍聯合が滅んでもカー業魔奴カルマナは下がってなかったもんな。ウラウラの言う通りかもしれねえ」


 やがて、イエローは仕事道具の入ったカバンを手にして立ち上がる。捕まった際に没収されてたようだが、事務所に一式が置かれてた。


「この度は、助けていただき誠にありがとうございます。またのご縁がありましたら」


 かくして、イエローは義龍聯合の本部を後にする。なんなんだろうな、あいつの雰囲気、口調は丁寧なのに、なんか裏が読めない感じが鼻に付くんだよなあ。


 カチュキの復讐の情報集めのつもりが、なんかとんでもないもんを拾ってしまった気がする。あたし達、これからどうなるんだろうね。

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