正義感は危険なのです!?
結局、琴崎夕海は斉藤と辻内に別れを告げて一人でどこかに行ってしまった。
落ち込んだ斉藤たちは家に引き返すために元の位置へと戻ってきた。
元の位置、つまり俺が電信柱に隠れている方向だ。
「あ!!!!」
「げ、げげ――」
――気づかれた――俺はよりにもよって斉藤に気づかれたのだ。
「昨日俺が助けた女の子じゃないか! 急に居なくなっちゃうからビックリしたけど、ここに居たのか!」
急に居なくなるって言ったって、俺はお前を投げ飛ばして逃げて来たんだけどな。
「へえ、この子が斉藤が助けたって自慢していた子ですか」と辻内は俺に対して興味有りげな表情を浮かべる。
というか、俺は斉藤なんかに助けられたつもりはないぞ。
「君、名前はなんていうんだ? 俺たちは怪しい奴じゃないってわかっただろ? だから教えてくれよ」と斉藤はやたらしつこく俺の名前を知りたがっている。
ますます面倒くさいことになってしまって、どうしようとモヤモヤしている間に頭皮が痒くなってきた。
頭皮が痒くなってきたからといって、斉藤に捕まったという現実から逃避していても仕方がないので、俺は名案が思い浮かぶまでじっくりと熟考する。
まず、斉藤と辻内の気の散ることを言おう。
そしてその間に全力疾走して逃げるのだ。あの二人が逃げる女を追うような真似ができないってことは俺が一番よく知っている。
しかしあいつらは説明がない突拍子もないことを嫌うから、俺が突然走り出した場合は追いかけてくるかもしれない。
だからこそ何かに気を惹かせ、その内に逃げるのだ。
「あ、あそこにUFOが!!! UFOだよ! U・F・O!!!!」
俺は叫んだ。
とてつもなく幼稚なセリフで、我ながら下手くそな芝居だった。幼稚なセリフと下手な芝居。
俺はこの作戦は限りなく悪手であると感じて後悔した。
しかし――
「え、UFO? それは本当か!? 辻内は見えたか?」
「そんな! UFOですって? そういうのはサイエンスフィクションの世界じゃなければ存在しないものとばかり思っていましたが、しかしながら広大な宇宙の中で地球人以外に惑星を飛び出したがる知的生命体が存在しないとは言い切れませんので、UFOの存在を完全に否定することは不可能ですからね。以上の理由を持ちまして、僕も探しますよ!」
――むしろ作戦は大成功だった。
このチャンスを逃さぬように俺は全力で突っ走った。琴崎夕海が歩いて行った方向に、だ。
そして俺は斉藤らに見つからないように念のため路地裏に身を隠した。
あいつらは嘘をつかれるのが嫌いな奴だから、嘘だってわかった瞬間に追っかけてくるかもしれないからな。
暫く身を隠してひっそりとしてたが、斉藤達が追ってくる気配はなかった。
つまり、あいつらはUFO探しの旅に出たか、諦めて帰ったかのどっちかだ。
俺は琴崎夕海を追跡してみようと思う。
俺に用があるようだったし、斉藤と辻内を介してではなく直接あったほうが互いに喋れることは多いはずだ。
何よりも命の恩人だと言っていたことが気になる。
家から三番目に近いコンビニを通る。ここらへんはアパートが多い。
コンビニの駐車場を見てみると、うちの高校の制服を着た男子三人組が喫煙場の前でたむろしている。
二年生か。うちでは有名なガラの悪いやつらだ。
あいつらは二年になって早々に原付きバイクでノーヘル&無免許の三人乗り通学というアホなことをして自宅謹慎処分を受けたと噂になっていた。
そんなのがゴールデンウィークをこんなところで過ごしていたとは意外だった。随分と退屈な奴等だ。
ガラの悪いうちの学校の三人がコンビニの前でぷかぷかとタバコを吸っている。
ただそれだけの光景だと思っていた。
しかし、よくよく見てみればその三人の前に一人の女が立っていた。
そしてその三人を何やら注意しているようだった。
一度グレてしまった奴らには、そいつが大人になっていくまでは何言ったって無駄だと俺は思うのだが、彼女はそう思わないらしい。
女ひとりで男三人に立ち向かうのは、勇敢ではあるが無謀ではあった。
「ったく! うるっせえよ! 俺たちがここでタバコを吸ってたところで何の問題があるってんだ」
「でも、あなたたちは未成年でしょう? 法律で禁止されていることを表立ってやるのは見過ごせないわ。勿論、隠れてやるのも駄目だけど、わざわざ制服を着てまで公の場でタバコを吸うなんて誰かへの当てつけかしら?」
「ああん? 意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ。生徒会長なんてのは先公の手先だろ? そんなやつの言うことなんて信用ならねぇえなあ!」
ヤンキーを注意していたのは、俺が探していた人物である琴崎夕海であった。
彼女は細身の身体で、自分たちより遥かにガタイの良い男たちを言葉で相手にしているのだ。
生徒会長としての血が騒ぐのだろう。しかしその正義感は危険だ。
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