第2話 初出勤
ベッドの横からだらしなく折れ下がった脚を、四角く切り取られた夕陽が照らす。もぞっと動いたかと思うと、一拍置いてぐいんっと起き上がる上体。その視線は自然と橙に染まった脚に、そしてゆるゆると窓のほうへ。息を飲んだ。
「しまった…」
吐息だけでそう漏らすと彼女は、まだ雑多な部屋を見回し時計を探す。壁に掛けるフックを用意できていないので、段ボールの上で裏返しになっていた。急いでひっくり返して見てみると、十八時は過ぎていないようだ。
本格的に忙しくなるのは二十時をまわる頃と聞いてはいたが、こちらが頼んでお世話になることになったのだ、できるだけ早めに手伝いに出たほうがよいだろう。予定よりも積み重なったままの段ボールをじっと見つつ、ため息をひとつ。今日中に生活必需品は整頓を済ませておきたかったが、諦めることにした。
とりあえず、開梱作業の格好で店に立つわけにもいかないので、洋服の詰められた箱を探す。外出用は専用の衣装ケースに入れて持ってきたので、押し入れに無造作に重ねてあるものの、部屋着などはなんとなく恥ずかしく、前もって段ボールに詰めておいたのだった。確かもう一本ジーンズを入れてきたはず。それから、適当なカットソーで充分だろう。
ここで、横着をして段ボールの横側に内容のメモをしなかったことを後悔する羽目になる。最初のうちは綺麗に上にも横にも書いていたけれど、だんだん面倒になり、上にだけ書いていたり、書いてあってもすぐには読めないという始末。同じ書くなら上ではなく横に書くべきだったと今さらながらに思う。
仕方なく片っ端から開けていくことになった。運良く三つもしないうちに服は揃ったので、積んだ段ボールの上に手鏡を立て掛けて、メイク崩れを直す。髪からバナナクリップを一旦外して、いつもより念入りに手ぐしで整え、留め直した。右に左に顔を振りつつ出来を見て、まあいいだろうということにした。
袖を肘まで捲り上げる。
「よしっ、行こう!」
下唇をきゅっと噛みしめ、彼女はドアノブに手をかけた。
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