第一話 右翼とセクハラ ⑥


 一方、平成維新会では中途半端な祝賀ムードである。相手は一切の抵抗をせずに来たのだ。奇妙である。


 淺倉は志村を送った後、事務所に帰投して残っていた全員に声を掛けた。


「岸、佐野!お疲れさん。やっぱりこういう時に素人相手に勘目負けしないのはお前らくらいだなぁ」


「やめてくださいよ。私達はそれで売ってるわけじゃないでしょう。」


 岸がもっともな返事をする。


「そうだな。まぁ今回は暖簾に腕押し状態だったが、次どう出るかだ。これから我々で毎日、彼女の送迎だ。いいな。」


「えっ。これ、実質、うちの勝ちじゃないんですか?」


 一番経験の浅い野口が驚いたように声を上げた。確かにこういった単発じゃない新規取り組みは初めての野口には終わったように見えたのだろう。


「野口、街宣一発だけで終わったら右翼の名折れだよ。この後、どうなるのか。私達の思うようにならないことを前提に行動しないと。」


 大岩が中に入る。そして続けて淺倉に向かって、草の者を使うのか聞いた。


「そうだな。水道橋の事務所に今度、顔を出してくるよ。情報収集ならあそこが一番だ。」


 水道橋とはとある右翼政党の事務所である。国会に議席はないものの地方で複数の議席を獲得している。草の者そこの専属活動家に腕のいい探偵がいるのだ。


「まぁ今日は解散とするか。」最年長の石田が解散の言葉として締めくくりこの日は解散となった。


 しかし物事が動くときは流水のごとく早いものである。3日後

 平成維新会が公表している固定電話に電話があり、淺倉の携帯に転送されたのだ。


「はい、こちら淺倉ですが。」どちら様ですかと聞く前に相手が名乗りを上げた。


「ああ右翼の人?こちら長井コンサルティング株式会社顧問弁護士の高田と申します。今お時間大丈夫ですか?」


「ええ。弁護士先生とのことですが所属弁護士会とお名前をフルネームでお伺いできます?」淺倉はこの手の電話でいたずら電話が多いことを知っていた。


「右翼なのにしっかりしてますねぇ。二弁の高田好夫です。」


「へぇ。高田好夫先生って言ったら聞いたことありますね。その弁護士先生がどうされましたか。」事実である。中小企業ユニオンや9条市民ネットの顧問もしている。有名な先生だ。


「ご存知いただけていたとは驚きです。さっそき要件ですが、先日からそちらさんが毎日街宣車で弊社に押し掛けていることで、ひどく心配する声が上がっています。事実ですか?」


「事実です」と答えた上で淺倉は続けた。


「しかし、知人を送迎しているだけですよ。何か法に触れるのですか?」無論、苦しい理屈である。しかしそれを通すのも右翼である。


「いえいえ。しかし弊社社員をご送迎されてということが発端です。一度、お会いする機会を設けていただけませんでしょうか。」


 釣れた。だが淺倉にも条件がある。


「それは構いません。私共もお会いしたく思っておりました。2点条件があります。御社社長が同席されること。記録の為の撮影、録音を許可頂きたいこと。いかがでしょうか。」


 一息の間の後に高田も答えた。


「もとよりお会いする場所は弊社の社長室の予定でしたから一点目は結構です。二点目につきましても社長室限定であれば構いません。またお会いする日は3日後の土曜日。午後一三時は如何ですか?」


 土曜日に設定したのはいささかの疑問であるが断る理由もない。淺倉も「大丈夫です」とだけ答え電話を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

右翼がやってくる! ☺環境依存☺ @sumera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ