第一話 右翼とセクハラ ⑤
エレベーターを降りると、佐藤、大岩の両役員が腰を折り挨拶をする。
外では淺倉がマイクで時局問題にまで話を広げていたところだ。可愛らしいOLを中心に四隅を隊服の右翼が囲む異様な光景である。
淺倉がそれに気付いた。
「おお、やっと来たか!」
そして続けた。「ではでは長井コンサルティング株式会社の長井社長!うちの知人はお預かりいたしました。また後日、正式にアポイントを取ってお伺いいたします。それでは良識ある界隈ご通行中の皆様、お騒がせしました。平成維新会でした。」
「じゃあ撤収!」
その声で片付け開始だ。志村をわざと大きなマイクロバスに案内する。そして、公安に軽く挨拶を済ませ、淺倉はマイクロバスに入り志村に声をかけた。
「やぁ志村さん。お仕事お疲れ様でした。今日は突然、失礼いたしました。」
志村も苦笑いしていたが、「少し、お姫さまか芸能人になった気分です。」と答えた。志村の発言に社内は和やかな雰囲気になった。
「ははは、お姫さまのナイトにしては大分、厳つい連中だ。白馬ではなく街宣車ですがお楽しみ下さいね。僕は向こうの車なので。」
そう言って、マイクロバスからアルファードに乗り換える。
そしてマイクロバスとアルファードの街宣車は夕闇に消えていった。
一方、取り残された方である。
長井が志村の上司を呼び出した。
「おい、これは一体どういうことだ。」
「も、申し訳ございません。社長。しかし右翼が出てくるとは想定外でして。」
頭頂禿げ頭が青い顔で長井に返事をする。
「当たり前だ。ちゃんと対策を取れ。」
「まぁ例の写真を確保していますし、もし騒ぐようなら問題ないと思います。関係にも連絡を回して対策を強化していきます。」
そう言って頭頂禿げ頭こと長井コンサルティング株式会社取締役役員兼総務部長の上里は社長室から退室した。そして電話を掛ける。
電話の相手は3コールで出た。
「あぁ上里さん。いつも世話なります。どうしはりました?」
「すみません。志村の件で今日、会社に右翼が押し掛てきまして…どうにかご助力を。」
「何?右翼ですか?なんも怖くありまへんって。しかしまぁこりゃ簡単にはいきまへんやろう。おたくの社長はうちの理事をしてますさかい、タダとはいきませんけど、相手が押し掛けてくる際にはうちも行きますから。言ってください。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!何卒、よろしくお願いいたします。確か団体名は平成維新会とか言ってました。何卒、何卒、よろしくお願いいたします。」
「平成維新会ねぇ…。はいはい。じゃあ。」
そういって相手は電話を切った。
時に時刻は20時を回る。志村は淺倉達に最寄り駅まで送ってもらい、神田の夜はネオンと共に更けていく。
そして、社長室に長井は一人、自身のPCを前に不気味な笑みを浮かべている。
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