第一話 右翼とセクハラ ④

 エレベーターを降りると、長井コンサルティング株式会社の社名看板と自動ドアがある。そして、ドアの内側には受付があり受付嬢とカウンター…そして、制服警官…制服警官?


「岸さんと佐野さん。お疲れ様です。万世橋警察署の警備課です。この会社に御用ですか?」


「ああ制服警備ですか。平成維新会行動隊の岸ですが。えぇ、この会社に会長の知人がいまして下っ端は送迎ですよ。」


 すると、次は制服に隠れたスーツが声をかけてきた。万世橋警察署の私服警備、つまりは公安代理だ。


「お疲れ様です。僕も万世橋です。ご一緒しても問題ないですか?」


 来ても問題ない。岸はそう答えた。


 警察と右翼がいるフロント前に気にならないわけもなく、社員と思しき数名が野次馬をしている。岸は精一杯の声を出す。


「お仕事中に失礼します。我々は政治結社平成維新会です。私は弊会会長の淺倉より送迎の任を仰せつかり、参上した次第でありあます。御社事務の志村様はいらっしゃいますか?」


 社内が一斉に志村の方を見る。そう、第一段階はそれでいい。人間は初対面が重要と聞く。


「あぁ先日はどうも…あと数分で終わります。少し待っていてください。」


 入口近くのデスクで仕事をしていた志村がおずおずと声を出す。その瞬間、岸と佐野は直角に腰を曲げ、最後の仕上げに掛かる。


「押忍!会長からくれぐれも粗相のないようお連れするよう仰せつかっております!こちらで業務終了までお待ちしております!」


 短髪の岸と、金髪の佐野は傍目に見ればただの怖い不良である。その不良みたいな右翼が警察に囲まれる姿は日常生活からすれば異様な事態だ。そして、それを呼んだと勘違いされているわけだが志村も驚きの視線を浴びている。その上司とやらもオロオロしているがいい気味だ。


 そして19時になる。就業時間は終わりだ。その瞬間、岸が再度声を出す。近場にいるのに大きな声だ。それによく通る。


「志村様。お時間になりました。ご準備を。」


 ここで馬鹿が声を出した。おびえているが定時に仕事を終えることが気に食わないのだろう。「ちょっと、志村さん…」


 しかし、最後までは言わせなかった。岸が三回肩を叩いたのである。


「おい!ジジイ!てめぇ聞こえなかったのか。うちの会長がお呼びなんだよ。文句あるのか?」金髪の不良少年にそういわれては"本当に"何か急ぎの仕事がないと言い返すのは難しいだろう。すぐに下を向いてしまった。


 そこで志村がデスクのPCを閉じ、上司に向かって「すみません。今日は用事がありまして定時で失礼します。」と言った。


 志村と岸と佐野は万世橋警察数人と共にエレベーターに乗り込む。たくさんの社員の目線を浴びながら。

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