第18話 11日目、カモン料理してしまう

「カモン様、朝食ってもうお昼ですよ」

「あはは・・・」


食堂に移動したカモンは見知ったメイドに朝食のお願いをしていた。

既に起きた時点で昼を過ぎていたにも関わらず、朝食を要望した事にジト目を向けられるのも無理は無いだろう。

後数日で城を追い出されるのは周知の事実、だからこそメイドは今までの召喚者と同じ様にカモンが部屋でゴロゴロしているだけなのだと考えて居たのだ。


「少し待ってて下さいね、パンとスープくらいなら用意できますから」

「ごめんね、ありがとう」


そう言って用意しに行ったメイドを見送って席に着く。

食事が用意されるまでの間、カモンは折角身に着けた鑑定に慣れる為に暇潰しとして練習を行なう事にした。

他の職業のスキルを暇潰しに練習するなんて行為自体が本来ありえない事なのだが・・・


『鑑定』


小さく呟いたカモンの左目には昨日と同じ様に膨大な量の情報が映し出される、それでも何度かの使用により必要ない内容は消去する事が出来ていた。

元素構成や元は何処に在った石などと言ったどうでもいい情報は無意識に消えるようにし始めたのだ。


「しっかし、このスキルは凄いな・・・商売とかする時に役立つかもね」


視界に映る情報から偽者を見分けるのは容易く出来るとカモンは今後の事を想像してニヤける。

鑑定士ではないカモンは自身が行なっている異常行為には勿論気付かない。

そもそも錬金術師が錬金術を使用し何かを作ったりする際に魔力を消費してスキルを使用する。

それは鑑定士でも変わらず、何か特定の物を鑑定する為にスキルを発動させる事はあっても視界に映る全ての物の鑑定を行なうなんて行為はありえないのだ。

壁から天井、目の前の机にスプーンから食器まで全ての詳細を不必要な情報だけを見えなくして見ている。

それが一体どれ程異常な事など知る由も無いのだ。


「お待たせしました。どうぞ」


そう言ってメイドが横からカモンの前にスープとパンを用意してくれた。


「食べ終わったら流しに置いておいて下さいね」


そう言ってメイドは部屋を出て行く、彼女も忙しい身なので仕事を中断させてしまった事を悪く思いながらもカモンはスプーンを手に手を合わせる。


「いただきます」


そして、目の前のスープに目をやった時であった。

カモンは暇潰しに使用した鑑定の効果を切るのを忘れていたのだ。

その為、カモンの目にスープの詳細が映し出される。



品名:薬膳と魚介のスープ

煮込まれた魚介に薬膳の効能を足した消化に優しい手作りスープ。

効果:消化補助、体温上昇、微毒



それにカモンの手が止まった。

そう、一番最後の項目に表示された一言・・・微毒

直ちに効果は出ない僅かな毒が含まれているのにカモンは気付いた。

そのまま置かれていた水差しに視線を動かすと・・・



品名:井戸水

城の井戸から汲み上げられた綺麗な飲料水

効果:水分補給、微毒



ここにも微毒の文字が・・・

そして、パンに目をやると・・・



品名:柔らかいパン

町の有名パン屋で毎日作られる大人気のパン

効果:体力回復、活力回復、微毒



カモンは食べるのを止めて席を立った。

頭に浮かぶ違和感と空腹感、だが目に映りこんだ微毒の二文字がカモンを動かした。

錬金術を使って毒を抜くのも考えたが、カモンの使用する錬金術は練成空間の中でイメージした変化をさせる物である。

毒を抜く方法が思いつかない以上、錬金術を使ってどうにかするのは不可能だと考えたのだが・・・


「あっそうだ!」


自身の脳内に浮かんだ一つの錬金術活用法、カモンは食事に手をつけずにそのまま部屋へと引き返した。

カモンの部屋には錬金術に使えると言うことで様々な物が用意されていた。

部屋に戻ったカモンは早速解除していない鑑定でそれらを確認していく・・・


「よし、こっちには微毒の表示は無いみたいだ」


その事実にホッとしてカモンは幾つかの物を取り出していく・・・

小麦に魔物の骨、薬草の数々・・・

それらを準備してスキルを発動させる!


『練成!』


魔石の欠片から膨大な魔力を消費し自身の思い描いたイメージ通りの形を作り上げる。

ある練成空間にはオーク等豚系魔物の骨と部屋で作り上げられた真水。

また別の練成空間には小麦と薬草は少量の真水。

それらがカモンの思い描いた通りの変化をしていく・・・


「ほぉ・・・一体なにをしているんだ?」


突然後ろから声を掛けられた。

昨日も聞いた自称賢者ガイアの声である、カモンは驚く事無く軽く返事を返す。


「食事全てに微毒と言う記載があったから怖くなりまして・・・」

「なに?」


カモンの言葉に顔を歪めるガイア。

カモンの口にした事の事実確認を行ないたいが、ガイアにはどれが毒なのかを見分ける術が無い。

だが自分と言う次元魔道士を捕らえる理由とそれが何処かで繋がる予感がしたのだ。


「それで自分で食べるものくらいは何とかしようと思いまして・・・」

「・・・」


カモンの言葉に目の前で行なわれている不思議な作業に目をやるガイア。

だがガイアは目の前の光景が理解できなかった。

それはそうだろう、カモンの錬金術がおかしいのは理解しているがその斜め上を数段すっ飛ばした光景が広がっていたのだから・・・

空中に浮かぶ複数の練成空間、その中ではそれぞれが別の動きをしているのだ。


「よし、スープはこれでよし、こっちは・・・ををっ!これは楽でいいね!」


空中で完成していくそれに頷いてカモンは指をパチンっと鳴らした。

すると二つの練成空間から液体と細長い固体が落下し下の器型の練成空間の上に納まった。

その形は正しく丼、透明のその中に作り上げられたそれをカモンは手に取った。


「どれどれ・・・ズズズズ・・・」


手にしたフォーク型の練成空間を使って中の細長いそれを咀嚼するカモン。

周囲に信じられない程の濃厚な香りが漂いガイアの喉がゴクリと鳴る。


「ぷはぁ!美味い!ガイアさんも食べますか?」

「あっあぁ・・・いただこうか・・・」

「分かりました。『練成!』」


再び生み出される練成空間。

ガイアには理解できない・・・

左の練成空間の中では魔物の骨が水と共に圧力釜で煮込まれている様に、濃厚なとんこつ風スープを生み出し。

右の練成空間の中では小麦と薬草が水と練り込まれ何度も折りたたまれ、細く切断されて麺となりそのまま茹で上げられる。

そう、カモンは錬金術で手作りとんこつ風ラーメンを生み出したのだ。

勿論ガイアが覗いた過去の文献にカモンが行なった様な事は載っていない。

錬金術で料理をするなどと言った発想自体が斬新過ぎたのだ。


「はいっ出来上がりましたよ」


そう言って同じく丼型の練成空間に入ったラーメンと練成空間で作ったフォークを手渡すカモン。

まさか自分が教えた練成空間の利用法をこんな風に使うとは思っても居なかったガイアは唖然としたままそれを受け取り・・・


「ズズッ・・・・っ?!」


スープを一口飲み込んで目を見開いた!

短時間ではありえない程に煮込まれた濃厚なスープの味、食欲を一気に刺激する香り。

その全てがガイアにとって、いやこの世界の住人にとってありえないレベルの仕上がりだったのだ。

そのまま一気に啜り上げる様にラーメンを食べる二人。

カモンのチート人間が遂に動き出したのであった・・・











一方その頃、城内勤務の兵士としてバロウとの試験に失格を言い渡されたレイラは自宅で絶望していた。


「今日中に・・・ですか・・・」

「あぁ、だがお前だけのせいじゃない。あまり思いつめるな」


城内勤務と言うエリート街道を踏み外したレイラの家族は代々受け継いでいた家を出る事となっていた。

簡単に言うと家賃が払えなくなっていたのだ。

一等地に住むレイラが兵士として認められることを信じて両親は借金をしてまで生活をギリギリまで切り詰めていた。

だが失格の烙印を押されたレイラはまともに剣を握れなくなっている。

であればこのまま生活を続けたとして破滅は目に見えていたのだ。


「なに、心配するな町の外れではあるが住む所は確保できた。レイラは本当に頑張ってくれたんだからな」

「お父さん・・・」


幾つになっても父親と言うのは娘に甘いものである。

左腕をまともに使えなくなった娘にこの先どんな未来が待っているのか・・・

それを理解してか誰もレイラを攻める事はない。

体の弱い弟もベットの上で泣きながら小さく謝罪の言葉を繰り返す。

借金だけが残り、家宝としてのレイラの使えない剣しか財産の無い状態の一家はこの日、長年住んだ家を出る事となった。

未来に希望なんて全く無い、それを理解しているにも関わらずレイラの父は笑顔を絶やさない。

それがまたレイラには辛かった。


「ほら、レイラ出発の準備をするわよ」

「うん・・・」


母親に促され僅かばかりの着替えを準備するレイラはまだ知らない・・・

カモンの付与した『運命選択』により彼女の願い『両親と体の弱い弟を養う』為にこれが必要な事だと言う事を・・・

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