第17話 11日目、練成空間利用法
左目が真っ暗に染まった状態のカモン、慌てて魔石の欠片を手放すと同時に背後から拍手が聞こえた。
「おめでとう」
鑑定の魔力量を調べるのに夢中で誰かが部屋に入ってきたのに気付かなかったのだ。
だがそこに立っていた男の姿にカモンは違和感を覚える。
ボロボロの布を纏っただけのその姿は城内に滞在する人間の服装にはとても見えなかったのだ。
『インターフェアレンス』
男が何かを突然唱えて身構えるカモン。
見知らぬ男が真夜中に部屋にいつの間にか居る、その事実が咄嗟に彼を身構えさせた。
だが・・・
「いやいや、驚かせてごめんよカモン君」
あどけた様子で笑顔を見せる男は頭を少し下げた。
見知らぬ男であったが自身の名前を知っている事から警戒心を緩めた。
カモンは知らない、目の前の男が希少な次元魔道士で今の呪文と共に過去へ精神を飛ばしカモンのこれまでの生活を見てきた事を・・・
そう、実時間にしてみれば刹那の間に目の前の男はカモンがこの世界に来てからの11日間を見たのだ。
「貴方は?」
「悪い悪い、俺は賢者『ガイア』って言う者だ。この城に住む精霊みたいな存在だと思ってもらえれば良いよ」
「精霊?」
ガイアはカモンが異世界から召喚された者である事、別世界の常識とこの世界の常識を知っている事、それらを統合して嘘の設定を考案した。
考える時間は次元魔道士であるガイアには無限にある、だからこそ一番嘘を貫き通せる設定として考えたのが精霊もどきと言う設定であった。
今の姿も仮初、尋ねられれば過去へ戻って一瞬で回収できる知識、まさしく次元魔道士の本領発揮であった。
「厳密には違うんだけどね、本当は人間の前に姿を晒す事は無いんだけど君の錬金術に興味を持ってね」
「そうなん・・・ですか」
カモンもその言葉に納得する、いやせざるを得ないだろう。
それを裏付ける証拠となる物は存在しないが、名乗ってもいない自分の名前、職業、ガイアの設定に矛盾が見つから無いのだ。
だが手放しで心を許すわけにも行かないのでカモンは最低限の警戒心を残したままガイアを見る。
「俺の知る限りで練成した物を元の状態に戻せる錬金術師は初めてなんでね、君に興味を持ったわけさ」
「・・・嘘じゃないみたいですね・・・」
錬金術で変化させた物を元の状態に戻せると言う事はカモンは誰にも言ってない、師匠であるカオルは当然出来ると思っていたからである。
だがガイアの話が真実なのであれば、それを知る者は自分以外にありえないという事である。
「それで、僕に何か用ですか?」
「そう警戒しないでよ、言っただろ?君に興味があるのさ。君にとっても悪い話じゃないと思うよ」
「具体的には?」
「この部屋に住ませて貰いたい、君がこれから何を成し遂げるのか興味があってね、あぁ君がここを出て行く4日・・・いや、3日後までで良いからさ」
これもまたカモンが錬金術師として失格の烙印を押されている事実、城を追い出されるまでの日数を言い当てている事から信憑性を増していた。
ばれない嘘のコツは、嘘の中に真実を入れると言う事をガイアは捉えられている間に過去へ精神を飛ばして学んでいたのだ。
しかし、カモンからしてみれば部屋にもう1人住人が増えると言うのは流石にごめんであった。
ベットは1つしかないし錬金術の実験を行なうには誰かが居ると非常に邪魔であるからだ。
「すみませんがお断りさせて・・・」
『リープ』
そこまで口にした瞬間ガイアの姿が一瞬にしてその場から消えた。
超スピードでもなければトリックが存在する訳も無かった。
なにより物理的に物体が視界から消える速度で動けば周囲に何らかの影響を及ぼす物である。
それが起こらずガイアが居た場所に手を伸ばしても何も無い。
それらの事から正真正銘消えたという事実がカモンに突き付けられ
た。
「なん・・・だったんだ・・・いったい・・・」
そう言って落した魔石の欠片を拾ってベットに戻ろうとした時であった。
「とまぁこんな風に迷惑は一切掛けないし、なにより君に錬金術の裏技を教えて上げられるよ」
「えっ?!」
いつの間にか元の場所に再び立っているガイア。
物理的にその場に居なかった筈なのに再び現れたガイアの姿にカモンは驚きを隠せなかった。
ガイアが行なったのは時限魔道士のスキル『リープ』で自身を数分後に跳躍させただけである。
これが、これこそが次元魔道士の極意であった。
未来へ指定した物体を次元跳躍させ、自身は過去へ精神体を送り物理的干渉は出来ないが知識を知ることが出来る。
まさに神懸かった能力と言わざるを得ないだろう。
「・・・錬金術の裏技ってのは?」
「おっ興味を持ってくれたかな?よし、それじゃあ一つ教えてあげよう。錬金術師の練成空間は錬金術が終わるまでは盾にも使えるってのはどうかな?」
「っ?!」
それはガイアが過去の書物から得た雑学の一つ、錬金術師が錬金術を使用する際に生み出す練成空間は空中に浮かぶ壁として使用できると言うものであった。
ガイアが読んだのは飛んできた矢が偶然錬金術師の練成空間に弾かれたという記載であったのだが、これを聞いたカモンは全く違う発想を行なっていた。
ガイアは知らない、錬金術師という存在を書物の中の知識でしか知らないから・・・
「分かりました。とても良い情報をありがとうございます。僕の邪魔にならないのであれば後3日間ですが御自由にどうぞ」
「すまないね、本当助かるよ。それじゃ今日はもう遅いから俺は消えるね。出来れば俺の事は内密にしてもらえると助かる、城内に俺を知る人間が多いと色々と面倒だからさ」
「分かりましたよ、精霊さん」
『リープ』
そう会話してガイアはその姿を消した、いや正確には未来へ跳躍した。
カモンはベットに寝転がり天井を見詰めながら思い付いた事を浮かべながら、寝る前に右手に握った魔石の欠片に魔力を流してもう一度唱えた。
『鑑定!』
膨大な情報量が一瞬にして左目に広がり視界が一瞬で真っ暗になる、だがこうなると理解していれば慌てる事無くカモンは能力を制御しようと意識する・・・
徐々に要らない情報が消えていき最終的に天井の材質を瞳に映したところでカモンは疲れからそのまま意識を失うように眠りに付いた・・・
目が覚めたのは昼過ぎであった。
体を起こしてから伸びをして朝食を食べに部屋を出る前にそれをセットした。
『練成』
それはミナヅキから依頼されていた水を生み出す錬金術。
昨夜ガイアから教わった事の実験も兼ねたその錬金術・・・
道具を一切使わないそれは空中に浮かびながら可動を始める・・・
本来であれば錬金術は定まった法則を利用して使用されるものである、だからこそ普通の錬金術師、カオルですらカモンの行なった事を知れば目玉が飛び出して破裂するほど驚く事だろう・・・
だがカモンにとっては常識のそれ・・・
空中に浮かんだ1つ目の練成空間には上下に穴が開いていた。
上から入った空気が中で練成され水だけを抽出して落下する。
元素で言えば空気の中にある元素から水素と酸素だけを抽出し結び付けて水にして下へ落とす。
そして、下に生み出された極薄型のタンク型の練成空間。
この下の練成空間で行なわれているのは空気を巡回させているだけ。
そう、これは受け皿である!
カモンは他の錬金術師と違い、錬金術を使用する際にプログラムの様に実行させる命令をイメージして使用する。
それは即ち魔力の続く限り永久にそこに練成空間を維持する事が出来ると言う事であった。
そして、その魔力は魔石の欠片に空気中の魔力を吸収させて仕様する事が出来る。
つまり無からプラスチック容器の様な物を自由に生み出すことが出来るのに相違なかった。
イメージが実現するのが錬金術。
空気中の水分を分離させてそれを貯める今回の2つの練成空間を用いた一つの錬金術。
カモンがイメージしたのは勿論『除湿機』だったのは言うまでもないだろう・・・
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