第16話 11日目、次元魔道士の男

カモンが上級鑑定士の『鑑定』に必要な魔力量を調べている時にその男は動きだした。

この国でも珍しい職業『次元魔道士』を持つその男は職業の鑑定を受けたその日に捕らえられ城の地下牢に閉じ込められたのだ。

幾度にも及ぶ試行錯誤により自らの力を理解した男は拘束された状態でスキルを発動させる。


『リープ』


一瞬男の体が消えて拘束具と共に衣類が床へ落ちる。

だが次の瞬間には男は全裸でその場に立っていたのだ。


「うしっいよいよここから逃げられる」


最初は意味も分からず、突然拘束され城へ連行されたその男は自らの能力を研究し一つの仮説に辿り着いていた。

それは彼が持つ次元魔道士の能力が関係しているからだろうと推測されていた。

次元魔道士は過去に数例しか事例の無いとても珍しい職業。

初級や上級と言った区分が存在せず戦闘能力は皆無、だがそれを補ってもお釣りが来るほどの特殊なスキルを持っていたのだ。

それが・・・


『インターフェアレンス』


と言うスキルである。

これは干渉を意味するその名の通り、過去へ自らの精神体を送り込み過去を覗き観る事が出来る能力であった。

彼はこの能力を使って過去に観覧されている書物を覗き見て知識を蓄えていた。

スキル発動中は現実の時間は静止したような状態で過去を覗き観る事が出来る為に、彼は既に数倍の人生を歩んでいると言っても良かった。

そして、彼が覗き見た書物の中にそれは記載されていた。


過去に存在した次元魔道士はこの能力を使用し真実を暴く行為を行なっていた。

その為、次元魔道士とは過去を覗き観る事が出来る能力者と考えられていたのだ。

そして、何故ここへ捕らえられたのか理解していた。


「しかし、本当にこの国に見られたら不味い事でもあるのか?」


理不尽に家族から連れ去られ無実の罪で極刑を先日言い渡された男は遂に行動に出たのだ。

床に落ちたボロボロの衣類をとりあえず着直して牢屋の扉に手を翳す。


『リープ』


スキル発動と共に手で引くと鍵が開いていないにも関わらず扉はスッと開いた。

だがこの城を抜け出したとしても彼に行く充て等無い、四方から別種族に戦争を仕掛けられているこの国を出た所で待っているのは死だけである。

なので彼が考えたのは城に隠れて住み着くという事であった。

誰も知らない次元魔道士の能力が在ればそれがきっと可能だと信じて疑わないのだ。

だから彼は隠れられる場所を探して夜の城内を移動する・・・


(ん?明かりが・・・)


兵士の隙を付いて牢屋から出た男はまるで運命に引き寄せられるようにその部屋に気付いた。

少し開いた扉に近付いて中を覗くと、水晶玉と魔石の欠片を手にしたカモンが何度も何度も実験を繰り返していた。


「鑑定!・・・鑑定!・・・」

(一体あれは何をやってるんだ?)


言っている言葉から鑑定を行なおうとしているのは直ぐに分かる、だが行動が意味不明なのだ。

鑑定士であれば最初の言葉と共に能力が発動している、だから何度も繰り返し唱える行為が分からないのだ。

だが顔立ちと黒髪、そしてなにより部屋の豪華さを見て男は気付いた。


(召喚者ってやつか!)


この国に住む者であれば一度は耳にした事がある、異世界から一定周期ごとに勇者と呼ばれる者を召喚する為に国が行なっている事。

召喚された者はこの世界では珍しい黒髪に特殊な能力を持っていると言う事実。

カモンの服装が魔道士や錬金術師の様な補助職の格好にも関わらず唱えているのが『鑑定』と言う事から男は口元を歪める。


(異世界の者であれば常識も知らず、上手く言い包めれば匿って貰えるかもしれない)


何せ異世界の勇者様であれば国から特別待遇を受ける上に、戦争に利用する為に機嫌を損ねる様な行いを国がするわけが無い。

だからこそ隠れ蓑には最適だと判断したのだ。

その時であった。


「鑑定!っ?!うわわわわわわわわっ!?」


突然部屋から聞こえたカモンの声に男の意識が引き戻された。

自らの状態に困惑しながらも思考を巡らせているカモンに意を決して男は行動に出ることにした。


「おめでとう」


拍手をしながらゆっくりとカモンの部屋に男は足を踏み入れたのであった。

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